研究課題/領域番号 |
19K00182
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研究機関 | 横浜美術大学 |
研究代表者 |
濱田 瑞美 横浜美術大学, 美術学部, 准教授 (30367148)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 仏教美術 / 図像研究 / 中国 / 莫高窟 / 千手観音 |
研究実績の概要 |
本研究は、敦煌地域に所在する唐宋時代の仏教石窟内に造られた塑像および壁画を対象に、個々の図像学的考察とともに、窟内全体の荘厳プログラムの解明を行うものである。 初年度である本年度は、千手観音の図像に関する研究を行い、研究成果を発表した。まず、千手観音の大手の二本を頭上に挙げて化仏を執る図像について、同図像は従来経典に依拠しない特殊な図像とみられてきたが、本研究ではこれが千手観音の関連文献に説かれる「頂上化仏手」であるという図像的典拠を確認し、唐代以降の敦煌莫高窟・瓜州楡林窟の壁画および敦煌将来絵画にみられる同図像の研究を行った。そのなかで、敦煌の盛唐・中唐期の千手観音の同図像においては観音の標幟である宝冠の化仏が描かれないという現象を発見し、この現象が頂上化仏と宝冠の化仏が同化したものである可能性、すなわち頭上の化仏という両者の位置の近似性、およびともに衆生を浄土往生に導く仏としての効能の重なりを要因とする同化現象であったと指摘した。 頂上化仏手の図像については、唐宋期の四川地域摩崖造像の作例との比較研究も行った。 また、敦煌将来絵画の千手観音図の中に如意輪観音と不空羂索観音が眷属の如く付属して描かれる図像に関し、『千手経』に依拠する「大悲心陀羅尼」念誦との密接な関係性を明らかにした。加えて、敦煌石窟の前室正面上方の中央に千手観音、左右に如意輪観音と不空羂索観音の三図を配することについても、主室に入る手前での大悲心陀羅尼の念誦、およびその行為が千手観音図のみならず他の二図にも関連するものであった可能性があり、窟内の荘厳プログラムと宗教的な実践行為との関係性の一端を明らかにできた。 以上、一定の研究成果が上がり国際学会や学術誌で発表したが、当初計画していた2020年2月から3月にかけての敦煌莫高窟の実地調査が、世界的な新型コロナウイルス感染症流行の影響により実施できなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度に予定していた実地調査のうちの一件(莫高窟の唐代石窟の調査)が、新型コロナウイルス感染症流行の影響により実施できず、新たな図像データの収集が予定通りに進まなかったため。
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今後の研究の推進方策 |
唐宋時代の敦煌石窟の窟内荘厳プログラム解明のため、正面の主龕の内容および龕内壁画の図像について、『敦煌石窟内容総録』など諸資料に基づく調査を進める。また、これまでに収集したデータを整理し、窟内の塑像や壁画の図像内容や題記の文言について、関連経軌との照合等による図像学的研究を引き続き行う。 海外調査が可能となった際には、敦煌地域の敦煌石窟を実地調査し、唐宋時代の塑像や壁画の図像と配置のデータ収集を進めていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、本年度2月から3月に予定していた海外の実地調査が、新型コロナウイルス感染症流行の影響により実施できなかったことにより、その分の旅費が本年度内に使用されなかったためである。 次年度に繰り越した研究費は、調査のための旅費等として使用する予定である。
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