研究課題/領域番号 |
19K00183
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研究機関 | 佛教大学 |
研究代表者 |
大西 磨希子 佛教大学, 仏教学部, 教授 (00413930)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 則天武后 / 武則天 / 舎利 / 大雲経疏 / 朝集使 / 五月一日経 / 宝雨経 / 弥勒変相図 |
研究実績の概要 |
2021年度も、新型コロナウイルス感染症のため、中国での現地調査がかなわなかったため、文献史料や図録などの公刊資料を中心に研究を行った。 儀鳳年間の舎利頒布について、本年度はこれまで不明であった頒布事業の具体相について検討を行った。すなわち、儀鳳年間のいつに、舎利がどのような形で頒賜され、全国各地に運ばれたのかという問題について、「ロ(サンズイ+路)州梵境寺大唐聖帝感舎利之銘」などをもとに考察を加えた。その結果、頒賜の場は当時「蓬莱宮」と呼ばれていた大明宮であり、舎利を下賜した主体は高宗で、諸州府の代表として舎利を受け取ったのは朝集使とみられること、さらに朝集使の在京期間や諸州府への輸送に要する日数などからみて、舎利の頒賜は儀鳳二年十月二十五日から儀鳳三年二月末頃までと考えられることを指摘した。そのうえで、儀鳳年間の舎利頒布の特徴は、朝集使という既存の行政機構を利用し、かつ直接統治下の全領域を対象としたもので、いわば仏教事業を政治と一体化して実施したところにあったとの結論に至った。 『宝雨経』は、武周王朝の正統性を裏付ける仏教経典として『大雲経』とあわせ重視されたもので、光明皇后御願の一切経である「五月一日経」にも『宝雨経』五巻が含まれている。研究代表者は以前、そのなかに使用された則天文字に着目し、底本の書写時期やその伝播などの問題を論じたことがあるが、本年度は正倉院文書に残る五月一日経書写に関する記録をもとに、その書写次第について再検討を行い、旧稿の誤りを正すとともに若干の補足を行った。 また本年度は、新たな課題として敦煌唐代の弥勒変相図の変遷に取り組んだ。その結果、武周期とその前後の作例の特徴を整理し、武周期に出現する図像的特徴を明らかにするとともに、それらの政治的背景についても一定の見解を導き出すことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
則天武后による儀鳳年間の舎利頒布事業に関しては、初年度以来、継続して研究を進め、『大雲経疏』がその舎利頒布事業を武后による八百四万舎利宝塔の造立発願にもとづくと説いていることの意味を考察したほか(「則天武后と阿育王――儀鳳年間の舎利頒布と『大雲経疏』をめぐって」『敦煌写本研究年報』第14号、2020年)、この舎利頒布事業が金銀などを用いた棺槨形式の舎利容器を全国に流布させる契機となったとみられることを指摘した(「棺槨形制舎利容器的伝播与武則天」『形象史学』総第15輯、2020年)。これら一連の研究過程のなかで積み残しとなっていた問題、すなわち儀鳳年間の舎利頒布とはどのようにして実施されたものであったのか、具体的には舎利はいつ、どこで、どのように頒賜されたのかという問題について研究を進め、2020年度に行なった口頭発表をもとに加筆・修正を行い、論文として発表することができた(「儀鳳年間の舎利頒布」『唐代史研究』第24号、2021年)。 一方、武周期の涅槃変相図については、2020年度と同様に現地調査がかなわず、進めることができなかった。しかし、敦煌唐代の弥勒変相図を対象に、その変遷と武周朝との関係について考察を進め、その成果を台湾・中央研究院歴史語言研究所での学会(オンライン開催)において口頭発表することができた。 以上の理由から、当初の予定どおりではなかったものの、おおむね順調に進めることができたと考える。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は本研究課題の完成年度であることから、これまでの4年間の研究成果をまとめることに重点を置く。 まず、棺槨式舎利容器の全国的普及と則天武后との関係については、2019年度に中国語で口頭発表を行い、2020年度に中国語で論文を執筆・発表したが、日本語ではいまだ発表していない。そこで、2022年度は日本語での発表と、それにもとづく論文執筆を行う。 次に、敦煌唐代の弥勒変相図に関する研究発表の成果についても、2022年度中に論文にまとめることを目指す。 さらに、この研究課題の初年度において実見調査を実施した中国山西省・蒲州大雲寺涅槃変碑像の銘文について、校訂と釈読、訓読を作成する。
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