最終年度にあたる2023年度は、(1)棺槨形舎利容器、(2)唐代弥勒変相図、(3)敦煌唐代壁画の時代区分について研究を行った。(1)では、則天武后による「金棺銀槨」創始について、法門寺真身舎利に関する『法苑珠林』の記載を検討した結果を中国語にまとめ、台湾の学会において口頭発表を行った。(2)は、従来の研究では上生経変か下生経変か、あるいはその結合したものか、というところに議論が集中し、時代的変遷については未着手の状態にあったが、画面形式や細部の図像表現に着目することによって、武周期を中心に前後三期に分けられることを明らかにした。(3)は、敦煌唐代壁画の画期を敦煌の吐蕃陥落時に置いていた従来の見解に疑問を呈し、敦煌壁画の画期の問題を再考した。さらに、こうした弥勒変相図の変遷に加え、西方浄土変とそれに付属する十六観図の変遷をみることによって、唐代変相図が則天武后期(皇后時代から武周期まで)に絵画的に大きな発展を遂げていた事実を新たに浮かび上がらせることができた。 研究期間全体を振り返ると、当初の研究計画において研究の二つの柱として想定していたのは、『大雲経疏』と涅槃変相図の調査研究であった。そのうち涅槃変相図については、中国での現地調査が実施できない状況に置かれたため、成果を出すことができなかった。しかし、『大雲経疏』については、大英図書館において敦煌写本S.2658とS.6502を実見調査し、とくに明堂と嵩山封禅の記事に着眼した研究成果をまとめることができた。また、当初の計画には入れていなかった則天武后と棺槨形舎利容器との関係に関して、儀鳳年間に参与した舎利頒布事業も含めて検討し、複数の新知見を得ることができた。
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