研究課題/領域番号 |
19K00185
|
研究機関 | 京都精華大学 |
研究代表者 |
鈴木 堅弘 京都精華大学, 人文学部, 研究員 (80567800)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 大津絵 / 浮世絵 / 図像学 / 近江 / 江戸時代 / 絵画 / 民藝 / 民画 |
研究実績の概要 |
2020年度の研究課題としては、アメリカの博物館・美術館を訪れて、大津絵の所蔵調査および作品撮影をする予定であった。ところが、コロナ禍の影響により、国内外での調査は行うことができず、また年に一度の共同研究会も実施できなかった。そうしたなかで、研究代表者が本課題に関する論文発表・学会発表をおこなった。研究活動および実績は、以下の通りである。 1.論文発表:「大津絵と芸能民の位相 ―「鬼の念仏」・「藤娘」の画題を中心に―」(『藝能史研究[第230号]』藝能史研究会、2020年7年)。同論文は、大津絵における「鬼の念仏」と「藤娘」の画題が、当時のどのような風俗や習慣をもとにして描かれたのかを読み解くものである。とくに大津絵が描かれた逢坂山を中心とした「場」の問題に着目し、これらの画題が鬼面芸能や風流踊りをおこなう芸能民の様相を描いたものであると結論づけた。 2.寄稿論文等:「山東京伝の文学と大津絵」(『大津絵[No.53]』大津絵文化協会、2021年1月)。同論考にて、江戸時代の戯作者の山東京伝が大津絵のコレクターであり、かつ鑑定もおこなっていた実態をあきらかにした。そのうえで、山東京伝が自身の戯作のなかで、大津絵の画中画の挿絵を積極的に描き、その事例をいくつか引用した。本研究課題である芸能民との関わりについての視座は希薄であるが、江戸後期の文芸が大津絵文化を取り入れたことを明らかにしている。 3.学会発表:「大津絵の異性装と絵像出現の怪異譚-風流踊りから近松門左衛門『けいせい反魂香』まで-」(説話・伝承学会2021年度春季大会、2021年4月)。本発表では、大津絵の「若衆」、「藤若衆」など異性装を描いた画題に着目し、こうした異性装の画題が描かれた理由を風俗図屏風や近松門左衛門の作品から読み解くことで、当時の芸能文化と〈大津絵の画題〉の関連性を探ることを試みた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年度は、次年度の研究計画にしたがい、研究協力者と共に、アメリカにてシアトル美術館、ボストン美術館、ホノルル美術館などで大津絵の所蔵調査および撮影を実地する予定であった。しかし、コロナ禍の影響により、アメリカへの渡航規制、あるいは同国の博物館・美術館の閉鎖のため、現地調査がまったく実施できなかった。そのため、アメリカでの大津絵の所蔵調査は、コロナ禍が収束した後に、速やかにおこなう予定である。 その点を考慮して、大津絵と芸能に関する「大津絵と芸能民の位相 ―「鬼の念仏」・「藤娘」の画題を中心に―」と題する論文等を発表し、「鬼の念仏」と「藤娘」に関する画題が、逢坂山を中心とした芸能文化と深く関わることを明らかにした。また学会発表として、近松門左衛門と大津絵文化の関連に着目し、若き日の近松が近江の近松寺に滞留していた観点から、近松の浄瑠璃作品(『けいせい反魂香』)に大津絵の趣向が用いられた理由を説く学説を提示した。 このように、コロナ禍のために国内の移動ができない状況下にて、本研究課題を少しでも進めてきた。今後、コロナ禍が収束後、すみやかに国内外の博物館・美術館における大津絵に関する所蔵調査や芸能に関する文献調査を実施する予定である。また引き続き、調査等が実施できない中でも、大津絵と芸能文化に関する論文を発表していくつもりである。
|
今後の研究の推進方策 |
本年度は、コロナ禍の影響もあり、国外調査が順調に実施できるのか、現状、未定である。ただし目標としては、一年間かけて、下記の博物館・美術館にて、大津絵の所蔵調査をおこなうつもりである。アメリカでは、ホノルル美術館(旧リチャード・レインコレクション)、シアトル美術館(旧宮又一コレクション)、ボストン美術館(旧ロバート・トリート・ペインコレクション)、メトロポリタン美術館(旧ハリー・G.C・パッカードコレクション)である。また、コロナ禍の収束が比較的に現実化してきたイスラエルのティコティン美術館(ティコティン・コレクション)への調査も候補地として新たに挙げておきたい。本研究の最も重要な課題である国外での大津絵の在存調査を、コロナ禍の収束後、すみやかに実施できるように、事前準備をする。 また国内調査に関しては、堺市博物館にて《月次風俗諸職図屏風》の調査・撮影を実施すると共に、柏崎市「黒船館」(吉田正太郎コレクション)にて大津絵の調査を実施する予定である。 そのほか、今夏に一度、EFEO‐KYOTOにて同研究課題に関する共同研究会(第2回目)を開催し、コロナ禍の影響で国外調査が大幅に遅れているために海外での調査スケジュールを見直す予定である。くわえて共同研究会にて、研究協力員が、各自、これまでの大津絵に関する最新の調査・研究報告を共有するつもりである。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2020年度は、コロナ禍の影響により、国内外の博物館・美術館に所蔵されている大津絵に関する悉皆調査・撮影が実施できなかった。とくに、シアトル美術館(旧宮又一コレクション)と、ホノルル美術館(旧リチャード・レインコレクション)にて、現地調査を早急に行なう予定であったが、こちらもコロナ禍の収束が見通せず、実施できなかった。このような国際的かつ社会的な要因のために、2020年度の研究費に未使用額が生じた。 なお、「研究課題へのアプローチ」や「国内外の博物館・美術館における大津絵に関する調査予定」に大きな変更はなく、各国のコロナ禍の収束後、速やかに現地調査を実施する予定である。
|