研究課題/領域番号 |
19K00185
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研究機関 | 京都精華大学 |
研究代表者 |
鈴木 堅弘 京都精華大学, 人文学部, 研究員 (80567800)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 大津絵 / 浮世絵 / 近松門左衛門 / 芸能 / 関蝉丸神社 / 図像学 / 民藝 / 人形浄瑠璃 |
研究実績の概要 |
2021年度の研究課題としては、アメリカの博物館・美術館を訪問し、大津絵に関する作品の遺存調査をする予定であった。ところが、コロナ禍の影響により、国外での調査が実施できず、急きょ、大津絵の展示会を兼ねたミニ・シンポジウムを開催し、これまでの研究成果を研究者および一般の人びとに報告することを行なった。2021年度の研究活動および実績は、以下の通りである。 ミニ・シンポジウムおよび大津絵の展示会:「大津絵を見る、語る」(於堺町画廊、2021年9月3日)。鈴木堅弘(京都精華大学)、クリストフ・マルケ氏(フランス国立極東学院)、横谷賢一郎氏(大津市歴史博物館)の三名にて、本研究課題の成果報告をトークセッションにて実施し、約15点の江戸時代の大津絵を会場に展示した。40名近くの来場者があり、本研究成果の中間報告を行なった。 国内資料調査①:研究協力者のクリストフ・マルケ氏および横谷賢一郎氏による東京の三井家に遺存する大津絵および鬼の念仏の彫像に関する調査・撮影を実施した。 国内資料調査②:研究代表者の鈴木堅弘が、福島県立博物館にて大津絵の画題に関係のある上宇内薬師堂の絵馬類の調査を実施した。同薬師堂には元禄期に描かれた大津絵の画題の藤娘の絵馬が奉納されていた経緯があり、他にも同じような大津絵の画題に関する絵馬が遺存するのか、その調査・撮影を実施した。 論文発表:「近松門左衛門『けいせい反魂香』と絵像出現の奇譚‐大津絵・浅井了意・関蝉丸神社縁起‐」(『説話・伝承学』[第30号]、2022年5月)。本論文は、なぜ近松門左衛門は人形浄瑠璃『けいせい反魂香』(宝永5〈1708年〉)にて大津絵の精および大津絵師の浮世又平を自身の作中に描くことができたのか、その背景を若き日の近松が大津の高観音近松寺に逗留していた歴史性から明らかにしたものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2021年度は、前年度の研究計画がコロナ禍のために遅延していたため、研究協力者と共に、アメリカにてシアトル美術館、ボストン美術館、ホノルル美術館などで大津絵の所蔵調査および撮影を早急に実地する予定であった。しかし、コロナ禍の影響により、アメリカへの渡航制限、また同国の博物館・美術館の閉鎖のため、現地調査がまったく実施できない状況が続いていた。今後、アメリカでの大津絵の所蔵調査は、コロナ禍による渡米規制が緩和された後に、速やかに実施する予定である。 これらの状況を踏まえて、2021年度は、9月3日に本研究課題の成果を、研究者および一般の方々に向けて報告するミニ・シンポジウム「古くてモダンな大津絵を見る、語る」を京都の堺町画廊にて実施した。同会では、同時に15点ほどの古い大津絵を展示し、実物を実見しながら、研究報告をおこない、約40名の参加者があった。 また研究代表者の鈴木堅弘が大津絵と芸能に関する学術論文「近松門左衛門『けいせい反魂香』と絵像出現の奇譚‐大津絵・浅井了意・関蝉丸神社縁起‐」を『説話・伝承学』[第30号]、2022年5月に発表し、近松門左衛門が人形浄瑠璃『けいせい反魂香』にて大津絵を登場させた理由を、彼が若き日に同地の近松寺に逗留していた歴史性から考察し、近松門左衛門と大津絵絵師と浄瑠璃興行者のネットワークを明らかにした。 これらのことをふまえて、コロナ禍のために海外調査が難しい状況下にて、本研究課題を国内にて少しでも進めてきた。今後、コロナ禍の収束が見込まれるなかで、すみやかに国外の博物館・美術館における大津絵に関する所蔵調査や大津絵の文献資料の調査を実施する予定である。またこうした現地調査等と並行しながら、大津絵と芸能文化に関する学術論文を発表していくつもりである。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は、コロナ禍による渡航制限が徐々に緩和されているために、国外調査が順次実施できると思われる。早急に、アメリカのシアトル美術館(旧宮又一コレクション)には調査を実施する必要があり、今夏に渡米する予定である。ほかにも、ホノルル美術館(旧リチャード・レインコレクション)、シアトル美術館(旧宮又一コレクション)、ボストン美術館(旧ロバート・トリート・ペインコレクション)、メトロポリタン美術館(旧ハリー・G.C・パッカードコレクション)への現地調査を随時実施する予定でいる。 またコロナ禍が一段落したイスラエルにて、ティコティン美術館(ティコティン・コレクション)での大津絵調査も候補地として考慮している。今後、アメリカをはじめとした国外での大津絵の在存調査を、コロナ禍の収束後、すみやかに実施できるように、事前準備を進めつつ、国内調査に関しては、堺市博物館にて《月次風俗諸職図屏風》および法政大学図書館等にて大津絵の調査・撮影を早急に実施することを検討している。そのほか、柏崎市「黒船館」(吉田正太郎コレクション)にて大津絵の調査を行なうことも考慮している。 また今夏、EFEO‐KYOTOにて同研究課題に関する共同研究会(第3回目)を開催し、コロナ禍の影響で国外調査が大幅に遅れているために海外での調査スケジュールを見直し、同会にて、研究協力員が、各自、これまでの大津絵に関する最新の調査・研究報告を共有すると共に、個別に調査地へおもむき、大津絵の悉皆調査を実施できるように検討したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度は、コロナ禍の影響により、とくにアメリカへの渡航が難しく、シアトル美術館(旧宮又一コレクション)と、ホノルル美術館(旧リチャード・レインコレクション)にて、現地調査を早急に行なう予定であったが、実施することができなかった。また、ボストン美術館(旧ロバート・トリート・ペインコレクション)、メトロポリタン美術館(旧ハリー・G.C・パッカードコレクション)への現地調査も予定していたが、日本国内からの渡航条件が厳しく、現地調査を実施するまでには至らなかった。また国内調査に関しても、2021年度の夏に国内のコロナ感染者が急増したために、夏休み期間を利用した国内の調査がまったく実施できなかった。] 今後の「研究課題への調査対象・方法」や「国内外の博物館・美術館における大津絵に関する調査予定」には大きな変更はないが、研究協力員の協力を得ることで、各自が個別に現地調査を実施する機会を積極的に設けていきたい。 また今後の研究計画として、今夏、シアトル美術館(旧宮又一コレクション)への現地調査、今秋にホノルル美術館および国内の現地調査、今冬にボストン美術館およびメトロポリタン美術館への現地調査の実施を計画している。
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