研究課題/領域番号 |
19K00185
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研究機関 | 京都精華大学 |
研究代表者 |
鈴木 堅弘 京都精華大学, 人文学部, 研究員 (80567800)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 大津絵 / 浮世絵 / 近松門左衛門 / 芸能 / 関蝉丸神社 / シャーマン・リー / 民藝 / 図像学 |
研究実績の概要 |
2022年度の研究課題として、アメリカのシアトル博物館・ワシントン大学を訪れて大津絵(1枚もの)の所蔵調査および作品の一部撮影を実施した。また研究協力者の協力を得て、国内にてこれまで発見されていなかった大津絵の実見調査を実施した。それら研究活動および実績は、以下の通りである。 1.海外調査:2023年3月上旬にて、研究代表者がシアトル・アジア美術館およびワシントン大学を訪れて、同所に遺存する大津絵(一枚物)に関する調査、実見、一部撮影を行った。また同館に約30枚もの大津絵が寄贈された理由を解き明かすために、同館の元館長であり、日本美術にも詳しいシャーマン・リー氏に関する戦後直の手紙や大津絵の搬入の際につくられた購入記録の資料群などの撮影をおこなった。 2.国内調査:研究協力者のEFEO教授クリストフ・マルケ氏に調査依頼し、岐阜市歴史博物館、横浜鶴見神社(旧花月園弁天堂の絵馬調査)、古美術天宝堂、宮城学院女子大学、東北福祉大学芹・澤銈介美術工芸館にて、新たな大津絵の発見と画図の内容に関する調査を実施して頂いた。 3.国内調査:研究代表者が法政大学図書館を訪れ、正岡子規旧蔵の大津絵に関する調査、実見、撮影を行った。これまで正岡子規所蔵の大津絵の存在は何度か報告されてきたが、実物をまとめて実見、調査することで、子規とその弟子たちとの関係を通じて大津絵を手に入れた経緯を解き明かすための基礎調査を実施するに至った。子規が所蔵していた大津絵は江戸時代に大津町で描かれたものではなく、明治期に復刻された新大津絵であることも新たにわかった。 4.国内調査:EFEO教授クリストフ・マルケ氏と共に、東京の銀座・日本橋における古美術商にて大津絵の特に「仏画」の遺存に関して、閲覧・撮影調査を依頼し、新資料の発見および閲覧・撮影・調書作成を行った。本調査では特に大津絵の「仏画」を中心とした調査を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2022年度は、コロナ禍での海外渡航規制が緩和されたのに伴い、研究計画にしたがって、アメリカにてシアトル・アジア美術館にて大津絵の所蔵資料に関する現地調査を実施した。またワシントン大学の図書館にてアメリカでの大津絵の先行研究に関する英文資料等の複写も実施した。まずは一度、アメリカでの大津絵調査が実施できたことが一つの成果であり、今後、ホノルル美術館(旧リチャード・レインコレクション)、ボストン美術館(旧ロバート・トリート・ペインコレクション)、メトロポリタン美術館(旧ハリー・G.C・パッカードコレクション)などで大津絵の所蔵調査および撮影を今年度中に実施する予定である。 また国内調査に関しては、正岡子規旧蔵の大津絵、古美術天宝堂、宮城学院女子大学等の大津絵に関する所蔵品の調査、撮影を実施し、大津絵のとくに「仏画」に関しては、今年度の調査にて新たな作品を数多く発見することができた。コロナ禍の影響により、今まで研究協力者による報告会が実施できなかったが、今夏にはこれまでの調査成果を研究協力者と共有する機会をもつために共同研究会を再開する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、コロナ禍が落ち着いてきたために、一年間かけて、下記の博物館・美術館にて、大津絵の所蔵調査をおこなうつもりである。アメリカの調査では、ホノルル美術館(旧リチャード・レインコレクション)、ボストン美術館(旧ロバート・トリート・ペインコレクション)、メトロポリタン美術館(旧ハリー・G.C・パッカードコレクション)である。またイスラエルのティコティン美術館(ティコティン・コレクション)への調査も候補地とする。 また国際発表として6月16日に韓国谷城のドッケビ学会にて研究代表者が「李朝の民画と日本の大津絵の文化比較について-なぜ朝鮮の民画にはドッケビが描かれていないのか?-」と題する口頭発表を実施する。大津絵の鬼の表象と李朝民画の図像を比較し、双方の文化の成り立ちや用途の差異を比較検討する。また同内容の論文を同学会誌に記載することがすでに決定している。 さらに昨年度のシアトル・アジア美術館での現地調査の成果をふまえて、美術史学会や仏教芸術学会等にて今夏以降、シャーマン・リーと大津絵コレクションに関する研究成果の口頭発表を行う予定である。昨年度にて実施できなかった国内調査に関しては、堺市博物館にて《月次風俗諸職図屏風》の調査・撮影を実施すると共に、柏崎市「黒船館」(吉田正太郎コレクション)にて大津絵の調査を実施する予定である。また今夏に一度、EFEO‐KYOTOにて同研究課題に関する共同研究会を開催し、共同研究会にて、研究協力員が、各自、これまでの大津絵に関する最新の調査・研究報告を共有するつもりである。
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次年度使用額が生じた理由 |
2022年度は、コロナ禍の影響が緩和され、年度後半にはアメリカのシアトル・アジア美術館での現地調査がようやく実施することできた。ただし、これまでのコロナ禍の影響により、アメリカでの現地調査が大幅に遅れており、まずはホノルル美術館(旧リチャード・レインコレクション)にて現地調査を早急に行ない、随時、ボストン美術館(旧ロバート・トリート・ペインコレクション)、メトロポリタン美術館(旧ハリー・G.C・パッカードコレクション)の調査を実施する予定である。コロナ禍の収束が長引いた影響によりこれら国外での現地調査への実施できず、2022年度の研究費に未使用額が生じた。コロナ禍が一段落したので、今後も引き続き「国内外の博物館・美術館における大津絵に関する調査予定」に大きな変更はなく、今夏および今冬にかけて国外での博物館・美術館に関する現地調査を集中的に実施する予定である。
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