研究実績の概要 |
本年度はコロナ禍により予定したイタリア渡航が実施できなかったが、昨年度までに収集した資料をもとに、彫刻家バンディネッリに関する根本問題と向き合い、二本の論文発表を実現した。バンディネッリが晩年に起草した『素描の書』を、同時代のヴァザーリ『美術家列伝』やアントン・フランチェスコ・ドーニ『素描』と比較しつつ、『素描の書』の独自性とバンディネッリの実作品との関連性についても検討した「バッチョ・バンディネッリの芸術思想―『素描の書』を中心に―」(『五浦論叢』〔茨城大学五浦美術文化研究所紀要〕, 27号, 2020年, pp.85-99)と、同論文執筆の過程で派生した、バンディネッリに対する二大巨匠の影響について論じた「バッチョ・バンディネッリの美術理論―レオナルドとミケランジェロとの関係を中心に」(『茨城大学教育学部紀要(人文・社会科学、芸術)』, 70号, 2021年, pp.41-53)である。 また、バンディネッリの前半生におけるパトロンであったジュリオ・デ・メディチ枢機卿(後のクレメンス七世)に捧げられたクリストーフォロ・マルチェッロの対話篇『運命について(De fato)』(1519年)の研究を進展させた。主要登場人物ユリダスがジュリオの分身であることから、ユリダスの発言の検討がジュリオひいてはバンディネッリの属する人文主義的環境の理解を助けると考えた研究代表者は、同写本がキケロ、プラトン、アリストテレスを参照しながらも、大枠としてプロティノスの問題提起に沿った構成であり、結論部でユリダスがプロティノスを自己の拠りどころとみなしているという見解に至った。本研究の成果は次年度の『五浦論叢』28号に掲載予定である。 これらに加え、騎士に叙任されたバンディネッリの属する文化圏の理解のため、西欧中世からルネサンスに至る騎士道文学を検討し、その精神的伝統についての分析にも着手した。
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