研究課題/領域番号 |
19K00193
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
宮下 規久朗 神戸大学, 人文学研究科, 教授 (30283849)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 聖母 / 疫病 / ペスト / 幻視 / 顕現 / バロック / カトリック改革 |
研究実績の概要 |
今年度は聖母の顕現図像について調査し、図像と文献を渉猟した。聖母図像の始まりとイコンの発展、ナラティヴ表現の展開と「嘆きの聖母」などのアンダハツビルト(祈念像)との関係など、幅広く調査した。聖母の神学的意味や図像については、ドイツで刊行されて聖母研究において定評のある『マリエンレキシコン』全6巻を入手し、その内容について学ぶところが多かった。 カトリック改革期の聖母図像を中心に、グンテンベルクの『アトラス・マリアヌム』(1672年)の諸版を検討し、記された顕現の場所と図像について検討した。それらが、中世の民間信仰と19世紀以降に喧伝されるようになる聖母の顕現とを架橋する役割を果たし、バロックの幻視画および聖母の顕現図像と大きく関わるものであることがわかった。 また、疫病の流行と聖母図像との関係について考察し、17世紀の事象について論考を発表した。とくにヴェネツィア、ボローニャ、モデナ、ローマ、ナポリでのペスト流行と美術の果たした役割について文献資料を集めて調査した。そして、14世紀のペスト流行時に成立した「慈悲の聖母」図像は見られず、奉納画や幟旗においてペストの惨状の上空で神にとりなして祈る聖母の図像が流行したことがあきらかになった。奉納画(エクス・ヴォート)においてはペスト終息感謝のために、大天使ミカエルや土地の聖人とともにほとんどの場合に聖母が描かれ、聖人や奉納者に顕現している。惨状の表現には、いくつかのトポス(定型表現)が成立しており、次代に継承されたこともわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
幻視画の中心をなす聖母の図像について広く調査することができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は聖母の顕現図像の調査を継続する一方、今回おろそかになった色彩や様式の問題についてさらに考察を深めたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍で予定していた海外調査に行けず、次年度使用額が生じてしまった。次年度は海外調査が行けるようになった時点で調査に行くことにしてすみやかに使用する。
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