活人画とはフランス語「tableaux vivants(生きている絵画)」の翻訳語であり、衣裳を身に着けた人物が静止した状態で絵画を再現するパフォーマンスを意味する。人が絵画を演じる活人画、ないし活人画的なものを対象とする本研究は、活人画そのものの歴史記述ではなく、活人画から美術および諸芸術に目を向けることによって新たに浮かび上がる諸問題について考察を広げることを目指した。初年度は、様々な芸術ジャンルにおける活人画的なるものについて、一次資料の収集と整理をおこなうとともに、議論の枠組み作りにつとめた。また、活人画の実践が現実の絵画・彫刻制作といかなる相互的影響関係にあったかについて、ルネサンス美術を中心に考察した。二年目は、文学作品と活人画の関係についての調査を行った。 最終年度である本年度は、活人画と裸体の関係についての再検討を行った。活人画の題材となる神話画には裸体画が多く、それを演じる活人画は女性の裸体を舞台に乗せるための口実としても機能していたからである。いわゆる「額縁ショウ」のプロデューサーであった秦豊吉の活動について主に調査を行ったが、その結果、秦は戦前の日本劇場のレビュー公演において、すでに活人画を用いて舞台に裸体を登場させていたこと、また額縁ショーの後に取り組んだ帝国劇場の一連のミュージカル制作でも、やはり活人画形式による裸体場面を組み込んでいたことが明らかとなった。 また本年度を含め、事業期間全体を通じて、演劇やオペラ、ミュージカル等の舞台芸能における、活人画的趣向の事例を収集した。その演出上の効果や、それがその時代の現実の絵画とどのような関連を持っていたかについて検討した。
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