本研究の課題として掲げた(1)ニューキャッスル大学での「ベーシック・デザイン」の確立、(2)同大学付属ギャラリーでの展示実験と美術家との交流、(3)学内の制作機材・設備等の修復と活用による自身の表現メディアの開拓のうち、本年度は(3)を中心に進めた。これは、(1)と(2)とが総合的に結びつき、ハミルトンの実作品として展開する段階でもある。 (1)においてハミルトンはドイツ・ウルム造形大学を視察する。そしてウルムと関係のあったドイツの家電メーカーブラウン社のカタログが定期的に手に入るようになる。それをモティーフに(3)、つまり版をとおして作品を発表していく。ブラウン社に関わる作品すべてを所蔵先で実見調査を行い、当時のメディアとの関係を考察した論考を国際学会で口頭発表し、論文も採択された。 一方、1956年にロンドンで開催された「これが明日だ」展のハミルトン等の「グループ2」の展示とその図録は、(3)で一部は準備されていることがわかった。ハミルトンの《いったい何が、今日の家庭をこれほどにも変え、魅力的なものにしているのか?》(以下、《いったい何が…》と表記)は、この図録やポスターのためにつくられたコラージュであるが、そのポスターは(3)をとおして完成したものである。このポスターを2022年5月所蔵先で実見調査した際に気づいたことは、コラージュされたマテリアルの違いが、ポスターとして拡大プリントされることにより、はっきりと表れていることである。この中で写真が使われている部分からの展開が、1960年代初頭からの《People》とそのバリエーション、および、1968年の《Mother》である。これらを《いったい何が…》のメディアの展開として考察し、その成果を2022年8月に意匠学会大会で口頭発表した。論文化したものは2023年6月投稿予定である。
|