研究課題/領域番号 |
19K00201
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研究機関 | 相模女子大学 |
研究代表者 |
下田 章平 相模女子大学, 学芸学部, 准教授 (60825826)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 羅振玉 / 上野有竹斎 / 大西行礼 / 山本二峯 / 藤田剣峯 / 林朗庵 / 林熊祥 / 陳宝シン |
研究実績の概要 |
2021年度は、日本との関わりも深い中国人収蔵関係者である羅振玉(1866-1940)と林熊祥(1896-1973)・林朗庵(諱は熊光、1897-1971)兄弟について検討した。前者に関しては羅振玉の京都避居の背景について検討した上で、京都避居当初の初期羅振玉書画碑帖コレクションの日本人収蔵家への斡旋と売却について考察した。羅振玉が京都避居を決断した背景には、藤田剣峯の斡旋によるものであり、避居と学術出版を遂行するための費用を捻出できると判断したからである。実際、京都避居の初期費用は上野本「十七帖」で捻出している。また、初期羅振玉書画碑帖コレクションの売却は、日本に明清書画と善本碑帖の実態を啓蒙する役割を果たし、上野有竹斎・大西行礼コレクションの中核を形成し、山本二峯は触発されて明清書画コレクションを短期間で拡充させる契機になったと見られる。さらに、羅振玉コレクションは、事前に売却目録が作成され、コレクション展が行われた。このことは後に「犬養木堂を中心とする収蔵集団」の斡旋・売却方法の指針となったことは特筆される。後者については、林兄弟の書画碑帖の知見の形成や、書画鑑定の内実について検討した。林兄弟は清の遺臣である陳宝シン(1848-1935)及び彼を介して福建人脈と繋がり、そこで書画碑帖の知見を深化させたといえる。また、林朗庵は日本で実業家として活動しており、関東及び関西の収蔵関係者と幅広い交友関係が形成されていたことが判明した。林熊祥は様式分析、林朗庵は書画鑑定の方法論に通じる態度で書画鑑定を行っており、林兄弟の嗜好する方法論は異なるが、相互に影響を受けていたと見られることが明らかとなった。林朗庵が収蔵家として大成したのは中国と日本の双方に優れた収蔵関係者との交友関係があり、また現代にも通ずる書画鑑定の方法論を身につけていたからであると結論づけた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度は犬養木堂の「収蔵集団」における役割の検討、2020年度は山本二峯の収蔵の検討を行った。2021年度は中国人収蔵家である羅振玉と林熊祥・林朗庵兄弟の検討を行った。当初、本年度は羅振玉のほかに廉泉と白堅を検討予定であったが、前者は他の研究者によって研究が深められ、後者は検討資料が不足していたため、林熊祥・林朗庵兄弟に対象を差し替えたが、おおむね研究自体は順調に進展している。なお、懸案の博文堂の活動についての検討は目下膨大な資料の分析を行っており、継続して検討することにしたい。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は博文堂及び中国人収蔵家の収蔵に関わる活動を継続検討しつつ、当初の計画通りに検討を進めてゆきたい。
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