最終年度は現地での補足調査と、これまで行った現地調査のデータの整理を行い、それらの成果に基づいて報告書を作成した。報告書には、調査を実施した22箇所の摩崖仏に関する基礎的データと3Dオルソ画像を収録し、古代摩崖仏に関する概説的な論考と、3D撮影に関する技術面からの論考を加えた。本調査を通して、全国の古代摩崖仏の現況について実態を把握することができた。保存の取り組みについて、近畿地方の遅れが目立つなど、地域差が生じていることや、保存整備が進んでいく一方で、風化や剥離も進行していることが確認された。また、制作年代について諸説あるものについて考察を加え、古代ではなく中世以降とみなすべき作例を指摘し、それらを除外して古代摩崖仏のリストを改めて作成した。リストを通覧し、各時代の特色を明らかにし、従来は個別作品解説の集積にとどまっていた感のある古代摩崖仏の歴史について、変化の様相を具体的に捉えて、時代背景とあわせて考察した。一般に摩崖仏は山林仏教との関係が指摘されているが、奈良時代までは標高の高い斜面にあり、平安時代になると山麓や河岸などの低地に開かれて広い前庭部を有する作例が増える。これは修験道の成立と発展の歴史に照らすと矛盾しているようであるが、公的な仏事が行える機能を有するようになったことを示すものと考えた。またしばしば摩崖仏は山林寺院と同等に論じられるが、今のところ発掘調査の結果から覆屋の存在が確認できるのは12世紀であり、摩崖仏は修行の場にはなり得ても、仏法僧の備わった寺院と同列にみなすことはできず、摩崖仏の機能や周辺寺院との関係について改めて見直す必要があることを指摘した。
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