研究課題/領域番号 |
19K00204
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
伊藤 拓真 九州大学, 人文科学研究院, 准教授 (80610823)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | ルネサンス美術 / 芸術地理 / ペルジーノ / ラファエロ |
研究実績の概要 |
本年度は先行研究の検討や古文献の調査、写真資料や過去に行った現地調査で得た資料の分析などを通じて研究を進展させた。 マルケ地方のファーノに残されたペルジーノの祭壇画については既に調査を進めていたが、その内容をより一層進め、「ラファエロの初期活動におけるペルジーノのファーノ祭壇画の位置づけ」として論文化し、学会誌『美術史』に投稿し、受理・出版された。この研究においては、ラファエロの初期様式の形成において、マルケ地方の都市ファーノに制作されたペルジーノの祭壇画が大きな役割を果たしたことを示した。ラファエロによるペルジーノ様式の模倣は、従来1503年から翌年にかけての画家のペルージャ滞在期を中心として考えられていたが、本研究ではラファエロの生地マルケ地方におけるペルジーノ受容と関連付けて論じた。この論考は、ペルジーノの様式をフィレンツェとペルージャという画家の拠点となった地域だけでなく、その周辺地域に及ぶ広い範囲で捉え直したことによって可能となったものである。 また本年度は、ペルジーノについての美術批評の分析も本格的に開始した。パオロ・ジョーヴィオやラッファエーレ・マッフェイらの記述を参照して、ペルジーノの様式が同時代にどのように捉えられていたかを分析した。ヴァザーリの『美術家列伝』などにおいてペルジーノの反復行為が批判されており、そのことは画家の評価のトポスともなっているが、その批判となった反復行為が実際にはどのような種類のものだったのかを検討した。その結果、ペルジーノの反復行為が、先行研究でしばしば前提とされていたような労力の節約というばかりではなく、都市単位を越えた画家の名声の確立に寄与したものであるという知見を得て、これを論文化するためにさらなる検討を加えている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新型コロナウイルス感染症の影響により、本年度も依然として海外での調査は困難な状況にあり、先行研究のさらなる検討や写真資料の入手などを通じて研究を進めた。外務省が発する渡航勧告のほか、所属研究機関の基準などを考慮した結果、本年度の海外での調査は断念したが、可能な手段を通じて研究を遂行することができた。先行研究に関しては、ペルジーノの工房で働いた画家をはじめとする関連画家についてのモノグラフを中心に検討を行った。ペルジーノ以外に、ラファエロ、ロ・スパーニャなど、比較的近年に研究の対象となった画家たちについて、特に重点的な検討を行った。古文献の内容検討については、各種の校訂版を用いるとともに、近年のデジタル資料の増大により概ね満足のいく結果が得られた。それに加えて、20世紀初頭のイタリアにおける美術史研究の状況も調査の対象と加えることで、画家に対する美術批評的イメージがどのように形成されたのかを明らかとすることができた。作品調査については現地の調査が行えなかったことで、作品ごとに条件が大幅に異なっているが、所蔵先や海外の研究機関が提供する図版資料などを活用して、一部の作品の分析を進めることはできた。海外への渡航を断念したため、当初の予定とは異なった部分はあるが、総合的にはおおむね順調に進展しているといえる。
|
今後の研究の推進方策 |
2022年4月現在にて、外務省の発する感染症渡航勧告が、関係国についてレベル2に引き下げられたことに加え、所属機関の基準も緩和されたことを踏まえて、2022年度はこれまで行うことができなかった海外現地での作品の調査および関連資料の調査を中心として行う予定である。主に、ペルジーノの工房に関係した画家など、関連画家の作品を中心に調査の対象とする。ペルジーノはフィレンツェとペルージャの二か所に工房を構えており、それぞれの土地で協力者がいたが、彼らの研究はほとんどが手つかずの状況であり、ペルジーノの工房で働いていた時期も特定されていない。このため、個別の作品の調査が必要となる。アンドレア・ダッシジ、ジェリーノ・ジェリーニ、ロ・スパーニャなど、出身地も活動場所もさまざまな画家たちがペルジーノという存在を通じてつながっており、その把握は1500年前後のイタリアの芸術地理的様相の把握に寄与することだろう。現地調査での期間としては、夏季から秋季にかけてを予定している。それと同時に、研究の最終年度にあることにも鑑みて、これまでの研究の成果を随時まとめていき、論文などの形によって公開する。直近では、ペルジーノの工房で制作された反復を用いた作品についての調査の結果をまとめ公表する作業に取り組み、その後は秋季の調査の結果を反映した論考を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初は海外での現地調査を予定しており、関連支出が予算の大部分をしめていたが、新型コロナウイルス感染症に関連する所属する機関の方針に従い延期した。また、国内の学会などもオンライン開催となったことで、国内旅費も不要となった。以上が次年度使用額が生じた主たる理由である。 2022年度は所属機関の海外渡航に関する規制も緩和されており、海外現地での調査が可能になることを見込んでいる。夏季・冬季の授業休止期間などを活用し、過年度までの予定も含めた調査を行う予定である。
|