研究課題/領域番号 |
19K00205
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研究機関 | 西南学院大学 |
研究代表者 |
松原 知生 西南学院大学, 国際文化学部, 教授 (20412546)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ジョット / スクロヴェーニ礼拝堂 / 受胎告知 / パドヴァ / アッシジ / フィレンツェ / シエナ / ゴシック |
研究実績の概要 |
今年度は、ジョットおよびその周辺の画家たちが14世紀初頭に制作した一連のフレスコ壁画を取り上げ、その周縁に位置する境界的イメージがもつ意味と役割について考察を行なった。具体的には、(1)ジョットがパドヴァのスクロヴェーニ礼拝堂の内陣壁面下方に描いた2つのいわゆる「小聖歌隊席(coretti)」、(2)同じくジョットによるアッシジ、サン・フランチェスコ聖堂下院マッダレーナ礼拝堂における2つの寄進者(テオバルド・ポンターノ)像、(3)ジョットの共作者とされる「サン・ニコラの画家」が手がけた同じ聖堂のサン・ニコラ礼拝堂における墓碑上の聖母子像という3点について、詳しく検討した。これらの部分がきわめて迫真的なトロンプ・ルイユ(錯視表現)によって描かれ、当時としては稀なイリュージョン効果を生み出していることについては、従来の研究においても認識されてきたが、様式論的な観点からの評価が主であり、その宗教的な意義や機能については踏み込んだ議論はなされてこなかった。そこで申請者は、先行研究の読解を通じてその成果と問題点を整理し再検討した上で、これらのイメージが観者の触覚を刺激するような近接した場所に位置するのみならず、壁画における他の部分(特に上方に配された物語画やステンドグラス)と有機的に連関することによって、天上の恩寵を地上の観者へともたらす、あるいは観者に天上的な「至福直観」を体験させるような効果を生み出している可能性について指摘した。(1)については考察の成果をすでに論文として発表し、(2)と(3)については公表を準備中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
交付申請書に記した研究実施計画において、初年度は13世紀末から14世紀初頭にかけてのテンペラ板絵による聖母子像について考察する予定としていたが、文献や資料の入手が前後したため、2年目に予定していたフレスコ壁画に関する調査研究を先に進めることとした。当初の研究順序が逆転したことによるデメリットは特にない。他方、新型コロナウィルス感染症の流行により、3月に計画していた現地調査を中止せざるをえなかったため、アッシジの2つの作品に関する考察はやや遅れることとなった。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、2年目に予定していたフレスコによる礼拝堂装飾について先に考察を行なったため、残る2ヶ年においては、13世紀末から14世紀半ばに至るテンペラ板絵の展開を連続的に調査・検討することが可能となり、研究の一貫性という点では、むしろ好ましい結果となった。他方、新型コロナウィルス感染症流行の収束が現在も見通せないため、イタリアほか欧米における現地調査が今後どのタイミングで可能となるかが問題である。場合によっては今後、研究期間の延長も視野に入れて計画を見直す必要が生じるかもしれない。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は3月に海外での2週間程度の作品調査を予定していたが、新型コロナウィルス感染症の流行のためキャンセルせざるを得ず、年度末で別の使途に用いる時間的余裕もなかったため、主に旅費の残額が次年度使用額として繰り越されることとなった。
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