研究課題/領域番号 |
19K00205
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研究機関 | 西南学院大学 |
研究代表者 |
松原 知生 西南学院大学, 国際文化学部, 教授 (20412546)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ジョット / アッシジ / フランシスコ会 / 煉獄 / 至福直観 / イタリア美術 / 中世絵画 / ゴシック |
研究実績の概要 |
本年度は、昨年度に実施したジョットとその周辺の画家たちによるアッシジ、サン・フランチェスコ聖堂下院のフレスコ装飾研究を継続し、「サン・ニコラ礼拝堂の画家」がおそらくジョット自身の関与のもと制作した、サン・ニコラ礼拝堂のジャン・ガエターノ・オルシーニ枢機卿墓碑について考察を行なった。 この墓碑の特異性は、主に以下の2点に存する。すなわち、大理石彫刻による墓碑本体の上部に、フレスコ画による聖母子と聖人像、およびステンドグラスによる被葬者と寄進者の像が配され、間メディウム的な総体を形成している点。そして、フレスコ画による聖母像が観者の方を見つめ、しかもその周囲の枠=額縁が、いわゆる「擬似祭壇画」とも、あるいは窓の向こうに顕れた聖なる幻視とも見紛うようなトロンプ・ルイユ(錯視表現)で描かれることで、両義的な視覚効果を観者に及ぼしている点である。 これらの特異性の意義を明らかにするために、まず13世紀半ばより発展をみた、彫刻と絵画(またはモザイク)を併用した新しいタイプの墓碑装飾、およびそれと並行して成立した「魂の推挙」図像の流れをたどり、その中に本作品を位置づけることで、その異質性(ステンドグラスが隣接していること、「魂の推挙」図像に不可欠な跪拝する被葬者の像が不在であること)を指摘した。さらに、こうした例外性の理由を考えるために、同時代の死生観をめぐる新しい思想と実践(煉獄の観念の成立、遺骸の前での死者ミサの実施、個別的審判をめぐる論争など)について調査し、関連づけて解釈することで、本作品は観者=礼拝者に至福直観を疑似体験させ、死者のための代祷を促す媒介装置としても機能していたという仮説に至った。 さらに本年度末には、コロナ禍のため延期してきた海外調査を実施し、ニューヨーク、フィラデルフィア、ボストン、ニューヘヴンの美術館に所蔵されている中世イタリアの絵画作品を実地調査した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本課題の構想において調査予定としていた壁画群(フレスコ連作)については、本年度をもって考察を完了し、いずれの成果も論文として公刊することができた。他方、テンペラ技法による板絵作品についての研究は、コロナ禍で海外への実地調査が長期間できなかったこともあり、全体としてやや遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
全般的に研究の進展が遅れているテンペラ板絵による作品のうち、ドゥッチョ、チマブーエ、ジョットによる3点の「マエスタ」については、予備調査は完了しているため、その成果を論文として刊行することを目指す。他方、シエナ大聖堂の祭壇画群に関しては、特に床を飾る斑入り大理石や象嵌細工のイメージについて、今後も考察を深める必要がある。
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