金属製の幡は国宝や重要文化財、正倉院宝物などを除き注目されることが少なかった。同種の幡の中で特に「玉幡」と呼ばれる一群について、多くが真言密教の灌頂儀礼に用いられる道具類の中に見出されることに着目し調査研究を行った。その結果従来未発表の作例を複数例見出すことができた。またそれらを含む灌頂道具類が、ある地域において真言密教の中核的な役割を担っていたと思われる寺院に伝わる点も注目され、その伝来は地域における真言寺院の位相を示す物証ともいえる。一方で玉幡と称され、あるいは形式上その定義を満たす作例でも真言の灌頂に関係しないものもあり、その用途は幡の本来的な機能すなわち荘厳であると推測された。
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