研究実績の概要 |
日本から西欧に至る航海上の南シナ海・インド洋海域の近世螺鈿工芸に焦点を当て、その作品、技法と素材の調査を通して、螺鈿の伝播による文化交流と貝文化圈の生成プロセスの解明を目的とする。 実績はフエ宮廷古物博物館ヴァン館長との共同研究として阮王朝伝来の螺鈿作品を論考した内田篤呉、フン・ティ・アン・ヴァン「ベトナム・フエ宮廷古物博物館所蔵の螺鈿作品」(『漆工史』第45号2023年)を学会誌で発表した。 タイ螺鈿はラーマ1世から3世に至る寺院螺鈿扉の図様と技法を論考したサイアム大学の高田知仁「18世紀タイ国の寺院扉における説話と螺鈿文様」(前掲『漆工史』)を学会誌で発表した。 最終年度は、ベトナム螺鈿の起源に関わる古文書とヤコウガイの素材調査を実施した。ハノイ近郊タインホアン村神廟で採録した古文書「玉宝古伝」は、張公誠(994?-1099?)が1075年頃にベトナム螺鈿が創始され、通説の起源を15世紀から11世紀まで遡り、ベトナム・オリジナル技法を明らかにする。しかし1837年頃の写本のため、松浦典弘大谷大学教授の協力を得てテキストクリニックを経て漆工史学会誌発表の準備をしている。 ヤコウガイ調査は、岩崎望立正大学教授・長谷川浩金沢大学教授の協力を得てタイ、ベトナム、フィリピン、ミャンマー、アンダマン諸島、沖縄のヤコウガイ30個体80試料をSr/Ca, Si/Caの試験的分析をした結果、生息海域間でグループ化が可能であった。現在、田中健太郎東京都市大学准教授、本多貴之明治大学准教授等の協力を得て、地球化学によるNd同位体比の科学分析調査を準備している。本調査は、東南アジア・インド洋海域における文化交流史を遺物、素材、科学調査という新しい視点から構築する。来年度の科研費採択に向けて準備を進めている。
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