研究課題/領域番号 |
19K00219
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
藤木 秀朗 名古屋大学, 人文学研究科, 教授 (90311711)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 映画 / ドキュメンタリー / 環境問題 / エネルギー / 映像メディア / グローバルな想像力 / 放射性物質 |
研究実績の概要 |
本研究は、人が環境社会問題に向き合う上で、映像メディアがどのような役割を果たしてきたのかを明らかにし、今後の展望を示すことを目的としている。具体的には、福島第一原子力発電所事故後の環境社会問題を扱ったドキュメンタリー映像作品とそれに関連する国内外のドキュメンタリー映像作品を事例に次の 6つの観点から調査し分析することを目指している(申請当初の計画を多少更新した)。1新植民地主義、2エネルギー、3廃棄物、4公共性、5マイノリティ、6動物である。このうち4と6についてはすでに公刊してきた論文を修正・発展させ、将来刊行する予定の書籍に組み込む予定である。 2022年度は、2022年5月に4および関連映画の自主上映会に関連する研究成果を含む書籍Making Audiences: A Social History of Japanese Cinema and Media (Oxford University Press)を刊行した。また2に関するものとして、ハーバード大学のアレクサンダー・ザルテン教授との共同企画で2023年1月7-8日の2日間にわたってScreens and Energy(映像とエネルギー)と題したシンポジウムを名古屋大学で開催し、国内外からの9人の発表者とその他の参加者とともに、歴史、エコロジー、メディアの観点から有意義な議論を行なった。加えて、2022年8月にポーランドで開催されたドキュメンタリーの学会(対面参加)と2022年11月にポルトガルで開催されたカルチュラル・スタディーズの学会で口頭発表を行い、質疑応答の中で今後の研究にとって重要な示唆を得た。その他、本研究課題に間接的に関係するものとして2冊の共著書Eco-Disaster Film in Japanと『メディア論の冒険者たち』にそれぞれ寄稿した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2022年度はとくにエネルギーに関する論文を完成させる予定にしていたが、難航している。一つには本年度の前半はなおもコロナ禍にあり実質的な調査が難しかったということがある。またエネルギーについては環境人文学、社会学、経済学、政治学、工学などさまざまな分野で膨大な量の研究蓄積があるため、それらの文献を精査しながら読み込むのに想定以上の時間を費やすことになった。さらに近年の気候変動問題に加えて2022年初めからのウクライナ情勢の進展によりエネルギー問題をめぐる議論が目まぐるしく展開し、本研究の観点と論点の設定を再考せざるを得なくなった。例えば、想定されるエネルギー不足に対する不安から、原子力発電所を脱炭素の有力な手段として見る見方が世界的に強まり、日本政府も原子力発電所をより一層推進する方向へと舵を取るようになったということがある。 他方で、近年、福島原発事故に関するメディア研究や、より広く環境に関するメディア研究が次々と刊行されているため、そうした状況の中で本研究の意義を改めて問い直し、関連研究課題に対する貢献の仕方を考え直す必要性が生じてきた。それらの近年の研究成果としては、Livia Monnetの編著書 Toxic Immanecen: Decolonizaing Nuclear Legacies and FuturesやTiago de Lucaの単著書Planetary Cinema: Film, Media and the Earthなどがある。またThomas Lamarreもアニメを中心に放射能問題の研究を進めている。こうした最新の研究成果・状況を踏まえながら、本研究の構想をアップデートする必要性が出てきたことが「やや遅れている」原因の一つだと言える。
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今後の研究の推進方策 |
上記のように、当初のサブテーマを1新植民地主義、2エネルギー、3廃棄物、4公共性、5マイノリティ、6動物に修正した。本科研費の最終年度にあたる2023年度は、エネルギーに関する論文を完成させることと、マイノリティに関する論文に着手することを最大の目標とする。 上に記したように、エネルギーに関する問題は多岐多様であり、そのために執筆が難航してきた。そこで、グローバルな問題と地域の問題の両者を関連づけながら考察しつつも、論文としては分けて発表することを検討したい。具体的には、一つには、上記の2023年1月に名古屋大学で開催したシンポジウム「映像とエネルギー」を基に、現在ハーバード大学のザルテン教授と学術雑誌の特集号の編集を企画中である。ここに可能であれば、エネルギーのグローバルな問題に焦点を合わせた論文を投稿したい。同時に、地域の問題に関しては、7月にアメリカのポートランドで開催される環境文学研究学会(ASLE)と9月にイタリアのウディネで開催予定のヴィジュアル・エヴィデンス学会で口頭発表する(ただし、後者に関しては大学業務のためにキャンセルせざるを得ない状況が出てきた)。また5月半ばに、名古屋大学未来社会共創機構Future Society Studioと私がセンター長を務めている名古屋大学人文学研究科附属超域文化社会センターなどとの共催で『おだやかな革命』映画上映会+対談を行い、映画監督、環境学の研究者、NPO法人の理事長(市民の代表)と意見交換を行う。こうした機会で得られた知見を踏まえて論文を作成し、学術雑誌に投稿する。 マイノリティについては、多様な一次資料・二次文献を調査し福島原発事故後の状況を把握すると同時に、東日本大震災・原子力災害伝承館などに出かけてこの問題が伝承されているのか、されてるとすればどのようにかという点について、とくに映像資料に注目しながら検証する。
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