研究課題/領域番号 |
19K00220
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
輪島 裕介 大阪大学, 大学院人文学研究科(人文学専攻、芸術学専攻、日本学専攻), 教授 (50609500)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 在地音楽 / 大衆音楽 / 演歌 / ちんどん屋 / アニメソング / 民族音楽学 / ポピュラー音楽研究 / 大阪の芸能 |
研究実績の概要 |
「在地音楽vernacular music」という観点から、近代日本の大衆音楽史を国際的な同時代性の中で再考する試みを積極的に進めた。 5月には、韓国嘉泉大学校アジア文化研究所主催の、トロットと演歌の比較を主題とした国際シンポジウムで、演歌歌手の北島三郎について発表した。同シンポに登壇した、アジア系アメリカ研究の中心的な研究者であるクリスティーン・ヤノ氏(ハワイ大学教授)や、アメリカ合衆国における日本文学研究の第一人者であるマイケル・ボーダッシュ氏(シカゴ大学教授)と有益な意見交換を行った。この内容に基づき、新潮社のウェブマガジンで「北島三郎論」の連載を開始した。 7月には、韓国・大邸で開催された国際ポピュラー音楽学会にオンライン参加した。韓国の音楽研究者と共同で開催したパネルセッションでは、日本の大衆音楽における「北」の地理表象について、帝国日本の記憶とその戦後における変容に着目した発表を行った。また、Routledge社から刊行されている論文集、Global Popular Music Seriesのアジアに関連する巻の編者によるラウンドテーブル“Made in Asia”に参加し、国際的な文脈におけるアジア地域のポピュラー音楽研究の現状と未来について議論を行った。 さらに、毎年参加している台湾と日本を中心とした大衆的上演文化についての国際シンポジウムでは、大阪の芸能史の文脈に注目して、笠置シズ子のパフォーマンスについて発表した。新たに研究対象として設定した日本のアニメソングについても、英語ブックチャプターを執筆し(近刊予定)、その日本語版を論文として刊行した。また、アメリカで活動する民族音楽学者、阿部万里江氏によるちんどん屋についてのモノグラフを翻訳し、『ちんどん屋の響き』として刊行した。その他、市民講座などで積極的に研究の社会的還元を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
韓国での国際シンポジウムや国際ポピュラー音楽学会大会に参加し、国際的文脈における「演歌」ジャンルの批判的再検討を進められたことは重要な成果であった。 加えて、台湾で開催された国際シンポジウムにおいて、近代的港湾都市としての20世紀前半の大阪における大衆文化の勃興について、音楽にとどまらず、上演文化全般との関連において研究を深めることができた。 また、ちんどん屋に関するモノグラフの翻訳をきっかけに、多くの実践者や研究者と有益な意見交換ができた。その過程で、アメリカ合衆国の民族音楽学の動向についても多くの知見を得た。 さらに、新たに研究主題に加わった日本のアニメソングについても、1960年代から70年代までの歴史をまとめることができた。この成果は、英語で刊行されるハンドブックに掲載される予定である。 ただし、当初の研究計画の重要な目標の一つであった、研究者ネットワークの構築については、コロナ禍のため制約が多かった。そのため、研究課題の成果を発表する国際シンポジウムを開催することができず、研究期間を延長し、実際の渡航が可能となる2023年度に行うこととした。
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今後の研究の推進方策 |
当初の4年計画のうち3年がコロナ禍と重なったため、基本的には国内で文献的研究を行い、オンライン国際学会で発表する、という方針で進めてきた。本課題で設定した3つの課題(1・1930年代から60年代までの日本の大衆歌謡のアジア太平洋圏での受容、2・1960年代に日本を拠点にアジア全域で活動した台湾出身の歌手・俳優、林沖の経歴についての文化史的研究、3・現在「シティポップ」と称される日本の1970年代から80年代の音楽の世界的受容)のうち、1と3については、それぞれ「演歌」ジャンルと「ディスコ」に注目して、一定の成果を挙げ得たと考えているが、2については、台湾への渡航が困難なため、停滞を余儀なくされた。また、研究課題の大きな目標の一つであった研究者ネットワークの構築においては大きな限定が課せられた。そのため、研究期間を延長し、新たな最終年度となる2023年度は、台湾でのフィールド調査を行うと同時に、対面でのシンポジウムの主催など交流と発信の機会を自ら設定し、これまでの研究成果を国際的な研究ネットワークのなかで本格的に位置づけ、意見交換を行う。 本研究課題を通じて得られた「在地音楽vernacular music」という視点をさらに深め、2023年度より新たに科研費基盤C「近代日本ヴァナキュラー音楽史の構想:上演の場の連続性と越境性に注目して」を取得したため、本課題と新たな課題を有効に連続させることを念頭に置いて研究を進めてゆく。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍のため、最終年度に計画していた国際シンポジウムを行えなかったため、期間を延長し、2023年度に対面開催を行うこととした。本課題の単独で開催するには金額の不足が予想されるが、本課題の遂行を通じて着想した新たな研究課題、「近代日本ヴァナキュラー音楽史の構想:上演の場の連続性と越境性に注目して」が科研費基盤Cに採択されたため、その財源も使用する。研究課題の継続性を示す意味でも、適切な使用であると考える。
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