研究期間を延長しての最終年度である2023年度は、本課題の探求に基づいて構想された研究課題「近代日本ヴァナキュラー音楽史の構想:上演の場の連続性と越境性に注目して」(基盤C、2023年度~2026年度)との関連において研究を進めた。 本研究課題全体のまとめとして、ワークショップ「「アジア系」ポピュラー音楽における「中間性in-betweenness」の諸相:「アジアの東、アメリカの西」再説」を、日本ポピュラー音楽学会第35回年次大会にて対面で開催した。これは、本課題の初年度である2019年に、本課題の基本的な問題関心と展望を提示するために行ったシンポジウム「アジアの東、アメリカの西:環太平洋ポピュラー音楽の地政学」(第31回日本ポピュラー音楽学会年次大会全体シンポジウム)を引き継ぐもので、東アジアのポピュラー音楽文化と文化運動の研究に造詣の深い台湾の何東洪氏を2019年に引き続き招聘し、コロナ禍の3年余を挟んで、アジア圏のポピュラー音楽をめぐる文化的・社会的状況がどのように変化・断絶し、あるいは持続しているのかについて幅広く議論した。2010年代後半に進展した、アジア圏の独立系音楽家の対面的な相互交流が停滞を余儀なくされた反面、コロナ禍におけるインターネットを用いた視聴覚技術の大幅な向上によって、これまで以上に各種コンテンツの脱中心的で即時的な流通とコミュニケーションが可能になり、それが「ライブ性」の再編を促進し、新たな「ライブ」文化の形成の萌芽となりうるのではないか、という結論を得た。 さらに、本課題の中心的な事例の一つであるシティポップについても、論文集『シティポップ文化論』に寄稿し、「東京」という具体的な場所をトランスナショナルかつローカルな関係性の中で捉えることの重要性を強調した。
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