研究課題/領域番号 |
19K00229
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
富 燦霞 明治大学, 研究・知財戦略機構(駿河台), 研究推進員 (10795925)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 中国の伝統的身体観 / 中国舞踊 / 京劇 / 身体技法 / 中医学の身体観 / 舞踊学 / 舞踊人類学 / 芸術実践 |
研究実績の概要 |
本研究では、先行研究「戯曲の表現技法における動きの原理」で明らかにした諸特徴が中国独自の表現であると考え、現在も実践されている中医学の伝統的な身体観との比較検証を進めている。2021年度は、オンライン会議アプリを利用して、中医学・京劇・中国舞踊の専門家を招いた国際研究会(2021年8月から2022年3月・計7回・各日10:30~15:30)を開き、技法表現の検証と議論を行った。 会議の成果:①中国伝統的身体観の視点からの伝統技法の検証・分析を行う研究は、中国舞踊の領域では初めてであると確認された。②戯曲の化粧の色彩表現及び人物や人物間の主従関係と五行の概念との関連を検証し、異なる役柄の化粧の色彩が、五行の色彩と性格感情、また相生相克の序列的な関係と一致することを明らかにした。③手で身体の各部位を叩く技法と、中医学の経絡の流注ルートが経由する身体部位の順番との関係性の検証では、一見近似しているが直接的な関係ではないことが判明した。しかし体表に定められた陰陽の面に注目すると、身体の陰面と陽面を叩く回数がほぼ均等になっていることがわかった。このことは、陰陽の平衡を理想の健康状態とみる中医学の観点に符合しており、強いて言えば、さらに中国伝統の中庸思想にも近似している。④これまでに行った陰・陽、動・静、気、臓・腑、五行の見地からの戯曲の技法の検証から、伝統戯曲の技法が中医学の観点から解読できることを確認した。⑤戯曲技法における動きの特徴と気の流れのパターンとの検証が進行中であり、2022年度も検証を続ける。 検証結果の一部をまとめ、学会発表を2件行った:a.富燦霞「京劇の表現技法に見る中国伝統の身体観―色彩・性格の表現と五臓の主る精神」(スポーツ人類学会。2021年7月10日にオンライン開催)。b.富燦霞「『黄帝内経』にみる中国伝統の身体観」(舞踊学会。2021年12月4日にオンライン開催)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的と内容は、伝統中医学の身体観から中国舞踊における伝統的な身体表現を探り、検証することである。身体の動きは立体的であるため、技法表現の実演と検証は対面で行うことが望ましいが、2020年度は、新型コロナウィルス感染症のパンデミックにより停滞した。2021年度は、社会状況に対応するため、やむを得ずオンライン方式に切り替え、オンライン研究会を7回実施した。 本研究の検証対象は伝統技法であり、また研究会の参加者7名のうち6名が身体表現の専門家であるため、専門家の身体感覚によって平面的な映像から立体的な感覚を受け取ることができ、難なく検証を進められた。加えて、遠距離の移動が不要になったことでより多くの海外研究協力者を招くことができ、携わった異なる領域の専門家の方々に、これまでにない視点で研究に興味を持っていただき、また各職域での専門的な見解と問題も提示していただいたため、新しい課題が見つかり、深くディスカッションすることができた。以上から、オンラインでのディスカッションの質は対面方式に劣らない結果となり、前年度の遅れを補うことができたといえる。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は本研究の最終年度であるが、引き続き時勢に対応しながら進めたい。現時点では、当分の間オンライン方式の研究会を続け、表現技法の検証を進めながら、研究成果の公表に向けて準備していくのが適当であると考えている。 研究成果は、論文の投稿及びシンポジウムの開催の両方によって公表する予定である。論文については、中医学の身体観と中国伝統文化思想との関連性を明らかにしたうえで、伝統的な戯曲技法を中医学の身体観から検証することによって見えてきた身体表現の様相と特有性をまとめ、学会に投稿する。 シンポジウムでは、まず参加する研究協力者それぞれが専門領域の視点について講演した後、討論及び質疑応答を通じて、本研究検証で明らかにした身体表現の実態を公表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度は、新型コロナウィルス感染症に伴う社会状況を受けて前年度に保留した基金を、研究に必要な機器の購入及び研究協力者への謝礼の一部として使用したため、次年度使用額が生じた。2022年度は本研究の最終年度であり、研究成果を公表するため、学会や論文発表の他に、シンポジウムの開催も予定している。目下、世界的な社会状況は依然として厳しく、海外の専門家を招いての対面式のシンポジウム開催は難しいと思われる。このため、シンポジウムはオンラインでの開催を考えている。よって、当初の計画に沿った研究協力者への謝礼や、検証の続行及び資料の保存などのためのPC周辺機器の補充に加え、オンライン国際シンポジウム開催の際の同時通訳者、同時通訳機器とエンジニアスタッフなどの依頼費用が必要である。ここに、次年度使用額をあてることとする。
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