研究課題/領域番号 |
19K00229
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
富 燦霞 明治大学, 研究・知財戦略機構(駿河台), 研究推進員 (10795925)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 京劇 / 中の伝統的身体観 / 中医学の身体観 / 中国舞踊 / 舞踊学 / 舞踊人類学 / 身体技法 / 芸術実践 |
研究実績の概要 |
戯曲の伝統技法における「動きの表現原理」を、中国の伝統的な身体観と比較検証し、伝統的な身体表現とは何かを探究してきた。中医学・京劇・中国舞踊の専門家と月一回のオンライン国際会議を開催し、昨年度に引き続き、技法表現の検証と議論を行なった。 ①研究代表者は先行研究において、以下の「動きの表現原理」を明らかにした:a. 頭・手・足・胴体4部位のそれぞれについて、動の表現・静の表現が結合している;b. 技法のフレーズは、静→動→静という共通のパターンを持っている;c. 人物の特性を二元的(男-女・文-武・老-若など)に捉え、同じ技法でも動きのエフォートを使い分けて表現する。実演の観察を通して、「動きの表現原理」は創作における核心の思惟であり、身体の表象はその結果であることを確認した。 ②「動きの表現原理」と中医学の身体観における陰陽概念を比較・検証した結果、a.は対立・共存、b.は互換循環、c.は相対的な考え方と、「動きの表現原理」の各要素を陰陽論の観点から解釈でき、戯曲の技法は中国伝統の思想文化を身体表現に反映していることがわかった。 ③動静表現(a.・b.)の様態と中医学の身体観における気の流れる様態を比較・検証した結果、技法表現の「漲る→流動→漲る」というパターンと、体内の気の流れる「充満→流動→充満」のリズムが一致していることを明らかにした。 ④静態表現を行なう際の役者の身体感覚と、古代知識人の自己修養に広く使われる「静坐」の身体感覚とを比較・検証した結果、両者とも、外部との繋がりを断つ→気を身体の奥へ凝集させる→気を身体全体に漲らせる→更に身体の外へ拡散させていくという気の操作を、長期的な訓練を経て体得していることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の目的は「伝統中医学の身体観から伝統戯曲(京劇)の基本技法を通して、中国舞踊における伝統的な身体表現を探り、検証すること」であったが、パンデミックの影響で停滞を余儀なくされた。そこで、一つ前の段階に範囲を縮小し、「戯曲の基本技法にみる伝統の身体表現を探る」とした。この目的に照らせば、本研究は順調に進んでいる。 昨年度までは、伝統戯曲の基本技法から明らかになった動きの表現原理を基に、伝統中医学の身体観から検証を行なってきたが、本年度はさらに国内外の漢学者による中国古代の身体観に関する研究と、古代知識人の自己修養の身体感覚も取り入れ、より多角的な視点で研究を進めた。よって、新しい目的に照らせば、本研究は順調に進展していると考える。 研究成果の公表は以下の通り、2件行なった:①舞踊学会における発表「京劇の表現技法の静態表現にみる中国伝統の身体観」、②オンライン国際シンポジウム「京劇基本技法にみる伝統の身体表現」(2023年3月12日14:00~16:30)の開催。②では、「身体 京劇基本技法と伝統中国医学」、「色彩の象徴 身体の五行と化粧の色使い」、「気 動・静の様態と臓腑経絡」、「身体感覚 静態表現と古代中国知識人の自己修養」の4大項目を盛り込んだ。
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今後の研究の推進方策 |
研究期間は2023年度までに延長となった。最終年度となる来年度は、進行中の検証を完成させ、これまでの研究成果を論文にまとめて、学会に投稿する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染症による遅れのため、研究期間を2023年度までに延長する許可をいただいたが、基金は今年度で終了した。来年度も研究を継続するため、今年度の基金の一部を次年度使用額として残すこととした。この次年度使用額は、主に研究協力者への謝礼及び論文投稿に必要な経費、また必要に応じて、研究の映像などのデータの記録保存用ディスク類・USBメモリの購入費用に充てる。
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