研究課題/領域番号 |
19K00241
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
宮坂 慎司 筑波大学, 芸術系, 助教 (00637150)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 触れる鑑賞 / 触覚的イメージ / 彫刻表現 / 鑑賞支援 / タッチツアー / ミュージアム・アクセシビリティ / アートメダル |
研究実績の概要 |
本研究は「触覚的イメージ」をキーワードとして、芸術実践者の視点を踏まえ、触れる美術鑑賞の足掛かりとなる研究基盤構築を目的としており、【A】触覚性に主眼を置いた彫刻表現研究、【B】国内外の触れる鑑賞支援の実践に対する調査、【C】触れることを前提とした展示及び鑑賞支援の実践を研究活動の柱としている。 2020年度の活動実績として、【A】に関しては、改組新第7回日展においてモルタルを主材とした彫刻作品を出品し、制作の一工程としての型取り法についての考察を主眼に置いた実践例を提示した。バックアップとなる鞘を用いない割り型製作法や、造形材として適したモルタルの配合比率及びその直付け法、素材感を意識した表層の仕上げ法については実践を重ねることができており、2021年度中に表現研究の論考としてまとめる予定である。【B】に関しては、これまでの実見調査及び文献調査をまとめ、月刊『視覚障害-その研究と情報』において9本の論考を執筆した。また、ミュージアム・アクセシビリティをテーマに、石見銀山資料館においてこれらの調査を基にした報告を行っている。なお、当該研究誌への寄稿は継続中で、現在は国内の作家・美術団体・ミュージアムの取組を中心に調査を行っている。【C】に関しては、触覚性が活かされる題材としてアートメダルに焦点を当て、触れる鑑賞につながるアートプロジェクトを展開した。触れられる展覧会として、自身の作品に加えて視覚特別支援学校児童生徒が制作したアートメダルを、豊門会館(静岡県駿東郡小山町)、足柄駅前交流センター、銀座ギャラリー青羅の三会場において展示した。また、第50回日本彫刻会展覧会における盲学校鑑賞教室及びタッチツアー実施のために新型コロナウイルス感染症対策・対応マニュアルを作成し、学校関係者や触れる鑑賞の支援者となる作家と連携しながら、触れる鑑賞支援の在り方を問う取組を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究実績の概要において記した【A】~【C】の研究活動においては一定の成果が得られているものの、2020年度における海外への渡航制限や多くの展覧会の開催延期・中止による影響で、進捗状況はやや遅れている。 【A】では、改組新第7回日展に出品した作品《singing shel fragmentl-ii》において表現技法としての型取り法の実験制作として提示できたものの、彫刻材としてのモルタル石膏混合材の物性確認を今後の課題として残している。彫刻における素材感をテーマとしたの論文投稿は予定通り行うことができ、モルタルを取材とする彫刻技法に関する表現研究も予定通り進められている。【B】においては、月刊『視覚障害-その研究と情報』に「触れるアートの“いま””と“これから”」と題して、連載にて9本の論考を示すことができたが、予定していたMuseo Tattile Statale Omero(イタリア)等海外のミュージアムへの調査は行えていない。【C】において は、アートメダルをテーマとして触れる鑑賞を実践する3つの展覧会を開催し、これを継続的に行う基盤も整えることができた。視覚特別支援学校との共同プロジェクトも順調に進めることができており、鑑賞支援に関する取組は概ね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度の研究活動として、以下【1】~【4】の取組を計画している。【1】モルタルを主材とした彫刻表現研究及び割り型による表現技法としての型取り法の確立、【2】彫刻材として使用する上でのモルタル石膏混合材の物性確認と方法論の整理、【3】国内外のミュージアム・アクセシビリティ及びアクセスプログラムに関する調査、【4】視覚特別支援学校との連携プロジェクトの推進(アートメダル制作支援及びタッチツアーの実施)及び触れる鑑賞に関する研究会の実施。【1】【2】については、審査を伴う展覧会への出品を行い作品として提示した上で、その論考を『彫刻研究誌アートライブラリー』(公益社団法人日本彫刻会)や『芸術学論集』(芸術学研究会)等の学術誌に査読論文として投稿する。【3】【4】についても同様に、調査や取組の実績を論考としてまとめ、月刊『視覚障害-その研究と情報』への寄稿原稿として執筆する。【1】~【4】の活動によって触覚的イメージに基づく彫刻表現に迫り、2022年度に実施を計画している横断的な展覧会の設計に取り組む。
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