音脈モワレ現象について,さまざまな心理的特性を検討してきたが,令和4年度では論文執筆を目標としてまとめた.まず,現実の音声を正弦波モデルを用いて奇数調波と偶数調波に分解し,それぞれを2チャネルに割り当て,ヘッドフォン受聴とステレオ受聴との場合で心理特性をまとめた.また,関連研究の調査を行った. 群化の研究の中で,信号音の例は多いが,実際の音声を対象にした研究,あるいは音信号を奇数調波と偶数調波に分解して再合成した場合の群化の話題はなかった. 心理実験の結果,ヘッドフォン受聴では,他方の音信号を混合しない場合,基本的には群化はしない.他方の音の回り込み信号を増加させると,その相対レベルの大きさにより,群化する度合いも増加する.スピーカー受聴の場合は,LRチャネルそれぞれに奇数,偶数調波を別々に割り当てても受聴者の外耳ではLR両チャネルの音信号が混合して受聴される.そのため,群化の度合いはヘッドフォンに比べてより多い. 一方,510cm離れたLRスピーカーの前方260cm点を直接実験協力者が左端から右端へ移動し,両調波が群化するゾーンと分離するゾーンの境界が172.5cmと求まった.この直接的な境界計測と,前者の心理実験による群化特性との両面からスピーカー受聴位置の群化に関する非線形性を明らかにした.以上をまとめてJASA(Journal of Acoustic Society of America)論文として提出した. また,ICMPC17に4チャネルのスピーカー受聴時に交互に奇数・偶数調波を割り当てた場合の群化の境界に関する検討結果について投稿し,令和5年度に発表予定である.また、音声を分解する手法として、NMFを用いたサウンドコラージュの研究という別検討も進めているが、これも群化の問題と関連し、基本的特性としての音質評価の検討を行い、音響学会秋季研究発表会で発表した。
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