研究課題/領域番号 |
19K00259
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研究機関 | 神奈川大学 |
研究代表者 |
秋山 珠子 神奈川大学, 外国語学部, 准教授 (80422385)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 中国 / 映画 / インディペンデント映画 / ドキュメンタリー / アサイラム / 非公式文化 / 表象 / コロナ禍 |
研究実績の概要 |
【調査】コロナ禍の継続により、オンラインによる調査を積極的に進め、作品および作り手の動勢を把握し、パンデミック下における中国非公式文化生産のアサイラムの新たな生存戦略の諸相を探究した。主な調査対象は、草場地工作站、現象工作室等の団体、および艾未未、呉文光、章夢奇、洛洛、朱日坤、趙大勇、耿軍、徐若涛、王楚禹、応亮、曾金燕、顧雪、李紅旗、張曜元等の監督、新少数民族当代囈語電影節、Visible Evidence、Finger Lakes Environmental Film Festival、台湾国際紀録片影展、母親影展等のオンライン映画祭・芸術祭である。日本国内では、山形国際ドキュメンタリー映画祭、東京国際映画祭、東京Filmex、大阪アジアン映画祭、恵比寿映像祭、香港インディペンデント映画祭、Tokyo Docs、Normal Screen等における出品作品および運営実態の調査・参与観察を行なった。 【研究交流】顧問を務めるChinese Independent Film Archive(CIFA/英国)のほか、現象工作室、イェール大学、ブリュッセル自由大学、香港バプテスト大学、名古屋大学、早稲田大学、専修大学等における研究集会に参加し、当該分野に関する意見交換を行うとともに、映画法施行以降の研究動向の把握に努めた。 【成果発表】AASでの学会発表のほか、招待を受け、CIFA、京都大学、青山学院大学、立教大学、早稲田大学等で研究成果を発表した。また既発表の英語論文に加筆した日本語論文が『異文化社会の理解と表象研究』(共著)に収録され、中国語論文が中国の有力映画サイト、凸凹鏡に転載された。さらに侯孝賢著『侯孝賢の映画講義』の翻訳を担当する過程で、中国語圏における映画制作と流通、ドキュメンタリーおよび劇映画における真実と現実、撮影技術と映像言語の変容等について、各分野の研究者および実務家による知識供与とフィードバックを得、出版を通してその成果を広く還元する機会を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、現代中国における非公式文化生産のダイナミズムの解明を目指し、「カルチュラル・アサイラム」という新たな枠組みを導入し、中国インディペンデント・ドキュメンタリーの生産と流通の諸相を分析するものである。当初、研究の重点は、2017年の映画法施行がもたらした、国家による規制強化とアサイラム消長の実態把握に置かれていた。 しかし、研究当初には予想しなかったパンデミックによる移動制限とそれに伴うオンライン・プラットホームの拡充により、アサイラムのもつ存在意義が更新され、新たな生存戦略が模索・実践されていることが、上述の調査・研究交流等によって次第に明らかになった。 さらに、学会発表や各種招待講演、論文および翻訳書の公刊等を通した成果発表を通じ、国内外で有益なフィードバックを得、今後の調査・研究に寄与しうる人的ネットワークの形成・強化をはかることができた。 渡航調査の延期による計画変更の一方、オンラインを中心とした調査・交流により、パンデミックに伴う新たなアサイラム消長のアクチュアリティをとらえ、今後の調査を有効に進めるためのネットワークの拡充がはかれた。これにより、伸縮と遷移を繰り返すアサイラムのダイナミズムを一層明確に把握・分析しうる可能性が増大したと考えられ、本研究はおおむね順調に進展しているものと判断する。
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今後の研究の推進方策 |
【調査】コロナ禍により、2019-2021年度に中止した海外渡航調査を再編し、中国国内での新たなアサイラム形成の動向(中国)、国外への移住監督の創作状況(欧州、米国)、海外映画祭・芸術展のプラットホームとしての機能(欧州、米国)等の調査と分析を進める。とりわけ、渡航制限のため調査が遅れた、海外移住監督、美術領域との相互参入の実態について、積極的な情報・資料収集を進めていく。国内では、東京国際映画祭、東京Filmex、Tokyo Docs、あいちトリエンナーレをはじめとする国際映画祭や芸術祭の機会をとらえ、作品調査と監督インタビューを行う。 また、引き続きオンラインを活用した、作品と監督についての調査を継続するほか、コロナ禍以降さらに重要性を増すオンライン・プラットホームのうち、アジアのインディペンデント映画に特化したCathay Playおよびアジアン・ドキュメンタリーズ等の実態把握と活用を進めていく。同時に、オンライン・プラットホームにたいする規制強化の状況についても調査・分析を進め、アサイラム変容と消長の因子を考察する。 【研究交流・成果発表】顧問を務めるCIFAや、ゲスト講師を務める草場地工作站等を通して海外の研究者や制作者との交流を継続するほか、招聘されている京都大学Transcultural Cinema Forumをはじめとする国内外の学会・研究集会での発表、また論文執筆・翻訳を通して成果を公開し、多地域・多領域からのフィードバックを得ることを目指す。さらに、章夢奇監督および日本人アーティストを招いた上映イベントを神奈川大学で実施し、広く市民に向けた成果還元を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
パンデミックによる渡航制限により、2019-2021年度の中国、米国、欧州調査を中止したほか、2019年度にコンピュータ購入を見送ったことなどから、累積未使用額が生じている。 2022年度は渡航制限解除の状況に応じて、研究課題遂行に必要な海外渡航調査および機材の購入を進める計画である。またコロナ禍と技術革新に伴い、映像作品の入手方法はDVD等の購入からオンライン配信に急速に移行しており、サブスクリプションなどによる入手を検討する。また成果公開の一環として、既発表論文の翻訳を進める予定である。
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備考 |
2020年度に福島ロケ撮影に協力した趙亮監督『行くあてもなく』(2021)が完成し、カンヌ国際映画祭や東京Filmex等に出品された。https://filmex.jp/2021/program/specialscreenings/ss6
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