研究課題/領域番号 |
19K00259
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研究機関 | 神奈川大学 |
研究代表者 |
秋山 珠子 神奈川大学, 外国語学部, 准教授 (80422385)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 中国 / 映画 / ドキュメンタリー / インディペンデント映画 / アサイラム / パンデミック / オンライン / 離散 |
研究実績の概要 |
【調査・研究交流】入国制限の解除が進む欧米地域を中心に、延期していた渡航調査を実施した。 ドイツおよびイタリアでは、離散中国人インタビューと作品収集、在外アサイラムに対する調査を進めた。またカッセル・ドクメンタ、ベルリン・ビエンナーレ、ベネチア・ビエンナーレという大型国際展を調査し、それぞれにおける中国作品、またパンデミック前後の政治と芸術の位相変化について重要な知見を得た。またベネチアでは艾未未最新展示の準備行程も調査した。 米国では、世界有数の実験映画祭であるAnn Arbor Film Festivalでの監督インタビューと作品鑑賞を通して、急増する離散中国人監督の世代ごとの創作の特質把握に努めた。またミシガン大学でChris Hill氏の授業およびGerman Studies Colloquium "documenta debate debrief"にゲスト参加し、東アジア映画の文化表象、カッセル・ドクメンタにおける政治と芸術に関する意見交換を行った。 日本国内では東京国際映画祭、東京Filmex、イメージフォーラム・フェスティバル、山形ドキュメンタリー道場、大阪アジアン映画祭等で、オンラインでは草場地工作站、母親影展、Cathayplay、Finger Lakes環境映画祭等で、中国作品および監督の調査を進めた。 【成果発表】AAS Virtualラウンドテーブル参加、草場地工作站(中国・オンライン)、京都大学、青山学院大学、座・高円寺ドキュメンタリー・フェスティバル等での招待公演、映像演劇に関する論文執筆等を通してこれまでの研究成果を発信し、国内外の各方面から一定の反響を得た(「備考」参照)。また神奈川大学で諏訪敦彦、山城知佳子、章夢奇の各氏を招聘したディスカッションおよび上映会「Storied Environments ― 物語る環境」を企画、共催し、劇映画・現代美術・ドキュメンタリーの最前線を担う、日本と中国の創作者の議論を交錯させる機会を創出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の目的は、中国インディペンデント・ドキュメンタリーの生成と流通を対象に、現代中国における非公式文化生産のダイナミズムを「カルチュラル・アサイラム」という新たな概念によって分析・解明することである。当初、研究の重点は、映画法施行に代表される、国家による規制強化とアサイラム収縮の実態把握に置かれていた。 しかし上述の調査・研究交流等によって、研究当初には予期せぬパンデミックの影響を受け、中国国内においては、オンラインを活用した新たな映画祭や小規模ワークショップなど、アサイラムの新たな生存様式が模索される一方、中国国外への離散が一層進行し、国外でのアサイラム形成が進行するなど、複合する新たな現象の一端が明らかになった。これらの成果は、学会発表や各種招待講演、上映会およびシンポジウム開催を通して広く国内外に発信し、とりわけ「Cultural Asylum/文化庇護(避難)所」という概念にたいする当事者の関心を多く喚起することができた(「備考」参照)。 上述のような成果があった一方、いまだ継続する入国制限により複数の中国調査計画が延期されており、現地の実態把握は不十分であることから、当初目指した包括的なビジョンの提起には至っていないことに鑑み、本研究はやや遅れていると判断し、1年間の研究期間延長を行うこととした。
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今後の研究の推進方策 |
【調査】アサイラム消長の諸相を把握すべく、パンデミックにより中止した複数の中国フィールドワークの計画を再編、実施するほか、引き続きオンラインを活用した作品と監督についての調査を継続する。さらにオンラインにたいする規制強化の実態についても調査・分析を進めていく。 【研究交流・成果発表】予定されているAAS2023(韓国)、CIFA(英国)、母親影展(中国・オンライン)での報告機会を通し、これまでの成果を発信し、国外の研究者や制作者との交流を継続する。また日本の各映画祭と連携し、中国監督を招いた上映イベントを神奈川大学で実施し、広く市民に向けた成果還元を行う予定である。最終的には論文執筆を通し、「カルチュラル・アサイラム」という概念を導入した中国インディペンデント・ドキュメンタリーの生成と流通の変遷についての包括的ビジョンを提示することを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
パンデミックに伴う入国制限の継続により、当初予定していた中国でのフィールドワークを中止したほか、2019年度にコンピュータ購入を見送ったことなどから、累積未使用額が生じている。2024年度は入国制限緩和の状況に応じて、研究課題遂行に必要なフィールドワークもしくは老朽化したコンピュータの更新を進める予定である。
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備考 |
秋山珠子「新刊紹介『異文化社会の理解と表象研究』」『REPRE』46, https://www.repre.org/repre/vol46/books/editing-multiple/akiyama/ 秋山珠子等「アジア映画研究会」『日本映像学会報』196, https://jasias.jp/wp-content/uploads/2023/02/JASIAS_NewsLetter196.pdf
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