研究課題/領域番号 |
19K00262
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研究機関 | 花園大学 |
研究代表者 |
秦 美香子 花園大学, 文学部, 教授 (90585358)
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研究分担者 |
西原 麻里 名古屋短期大学, 現代教養学科, 准教授 (20623573)
増田 のぞみ 甲南女子大学, 文学部, 教授 (80449553)
山中 千恵 京都産業大学, 現代社会学部, 教授 (90397779)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 翻案過程 / 表現とメディア / 作品分析 / マンガ表現 / 舞台表現 / マンガ研究 / アダプテーション研究 |
研究実績の概要 |
本研究の問いは、舞台表現とマンガ表現の間で翻案が行われるとき、(1)時間・空間・身体がどのように再現され、または変換されるのか、(2)表現方法の変換によって、イデオロギーはどのように維持され、または変化するのか、ということである。2019年度・2020年度は、マンガを舞台化する際の演出に、2021年度は、とくに「舞台という表現形式」がマンガの中でどのように描かれるかに注目し、研究を進めた。 2022年度は、とくに注目すべき作品として『DEATH NOTE』(大場つぐみ・小畑健、集英社刊)についての検討を進めた。当該作品は、2000年代(一部、2020年)に漫画・映画・テレビアニメが発表され、2010年代にはテレビドラマおよびミュージカルへの翻案が行われた。とくにミュージカル版は、日韓で発表され、2023年にも韓国で演出を改たにした作品が発表される。2022年度は、漫画と2015・2017・2020年に日本で発表されたミュージカル版を比較し、登場人物の動機がどのように表現されているかを比較した。 漫画では、主人公が「デスノート」と呼ばれる道具を用いて殺人を繰り返すが、その動機は重層的なもの(主人公の正義感、自分自身への言い訳、他者へのアピール、行為の戦略)として描写されている。一方、ミュージカル版では、動機は「歪んだ正義感」として一本化されて語られる。翻案過程でこのような違いが生じた背景には、漫画とミュージカルそれぞれの特性がある。漫画は、言葉・絵・コマ構成が相互に影響を与えながら物語をつむぐメディアであるために、それぞれの表現要素が異なった意味を発信することができる。また、複数年かけて連載が継続するために、複雑な物語展開が可能である。これに対してミュージカルでは、数時間で物語を観客に伝える必要があることから、漫画のような重層的な意味生成が困難なのではないかということが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度も新型コロナウイルス感染症の影響が残り、舞台公演の急な中止なども見られたものの、感染症流行の影響を鑑みた計画に従って研究を遂行したため、進捗の大きな遅れは無かった。一方、過年度の遅れを取り戻すほど大きく研究を進展させることはできなかった。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は最終年度となるため、研究の成果をまとめる作業が中心となる。同時に、本研究に残された課題を整理し、研究アプローチの批判的検討を行うことで、本研究をマンガ研究およびミュージカル研究の広がりの中に適切に位置付ける。 なお、「研究実績の概要」に示したように、2023年度は、これまで分析を進めてきた『DEATH NOTE』の新たな舞台翻案が韓国で発表される。こうした新しい動きにも目を向けて、作品分析を可能な限り深化させる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2022年度は、COVIDの世界的な流行状況に好転が多少見られたため、研究計画時に予定していた海外比較を一部行える見込みが出てきた。しかしとくに国際的なレベルでは行動制限が解除されたとはいえず、また作品比較に必要な舞台公演(韓国)が2023年度に予定されるなど、次年度に研究を続ける必要が生じた。
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