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2022 年度 実施状況報告書

アメリカ合衆国における知的障害の歴史的考察-医学の発達と市民権-

研究課題

研究課題/領域番号 19K00268
研究機関富山大学

研究代表者

小野 直子  富山大学, 学術研究部人文科学系, 教授 (00303199)

研究期間 (年度) 2019-04-01 – 2024-03-31
キーワードアメリカ / 優生学 / 断種 / ナチス
研究実績の概要

2022年度は、1930 年代から 40 年代にかけてアメリカ合衆国で断種に対する考え方及び政策はどのように変化したのか、その根拠となる優生学がどのように変容したのかを、優生主義者の雑誌『優生学ニュース(Eugenical News)』を通して考察した。その際、特にドイツのナチスの影響に注目した。『優生学ニュース』は、1916 年1月に優生記録局から発刊され、さまざまな変遷をたどりながら、1953 年12月まで刊行された雑誌である。刊行所が途中で変わりながらも、時にはアメリカの複数の主要な優生学団体がそれを公式機関誌としており、アメリカの優生学運動の言わば公式声明であった。数百万人にものぼるユダヤ人やロマ、障害者などのホロコーストによって,ナチスの人種政策に対する評価が失墜すると、アメリカの優生主義者は、かつてナチスの人種政策を支持したことから自らを引き離そうとした。改革派の優生主義者が、優生学から人種的・ 階級的偏見を取り除き、ナチスの人種政策と人為的に区別したことは、第二次世界大戦後の優生主義者の自己認識に影響を与え、ナチスの優生学的人種主義を支持した過去を都合よく「忘却」し、「民主主義的な」優生学運動を継続することを可能にした。そして、遺伝学だけでなく、心理学、人口学、社会学などの新しい科学的成果に基づく優生政策というレトリックが、生殖管理も含め、家族に対するさらなる介入を正当化することにもなったことを指摘した。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

3: やや遅れている

理由

2022年度は他のテーマに関する仕事が重なったため、特に知的障害者に焦点を当てることができなかった。ナチスの政策において障害者も殺害や断種の対象とされたが、主要な史料として使用した『優生学ニュース』では、知的障害者に焦点を当てた記載があまり見られなかった。

今後の研究の推進方策

2023年度は、人口政策と家族政策という観点から、知的障害者の生殖の権利について考察する。知的障害者の生殖に関してはこれまで、 19世紀末から20世紀初頭にかけての優生学運動において断種政策の主要な対象とされたこと、1930年代には公立の知的障害者収容施設から軽度の知的障害者を退所させるために、「強制的」ではなく「選択的」な断種数が増加したことを明らかにしてきた。そして、第二次世界大戦後の家族イデオロギーにおいて、子供の数を場合によっては強制的に制限することを前提にしつつも、知的障害者にも家族を形成する権利を認める言説が生み出されたことを明らかにしてきた。しかし、その家族イデオロギーは白人中産階級の家族をモデルとするものであり、またあくまでイデオロギーであったので、世界的な人口政策・家族政策において実際に知的障害者の生殖がどのように認識され、また扱われていたのかを明らかにする。

次年度使用額が生じた理由

注文した図書の納品が間に合わなかったため、2023年度に再度注文する予定である。

  • 研究成果

    (2件)

すべて 2023 2022

すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件) (うち招待講演 1件)

  • [雑誌論文] 「雑誌『優生学ニュース』にみる優生学と断種政策の変容-アメリカ優生学に対するナチスの影響-」2023

    • 著者名/発表者名
      小野直子
    • 雑誌名

      『富山大学人文科学研究』

      巻: 78 ページ: 43-58

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [学会発表] 「1930-40年代アメリカにおける優生学の変容-生殖・家族・人口問題-」2022

    • 著者名/発表者名
      小野直子
    • 学会等名
      早稲田大学総合人文科学研究センター公開研究会・シリーズ「戦後優生政策の国際比較」 第3回
    • 招待講演

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公開日: 2023-12-25  

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