研究課題/領域番号 |
19K00270
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
大塚 淳 京都大学, 文学研究科, 准教授 (60743705)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 生物学の哲学 / 対称性 / 進化の単位 / モジュール / プライス方程式 |
研究実績の概要 |
本年度は、研究計画に基づき、群論を用いた進化モデルの対称性についての数理的/哲学的を研究を行った。数理モデル的側面では、リー群を用いて微分方程式系の対称性を探る手法(Olver, 2000など)を参照しながら、系への介入を変換と捉えることで、進化方程式がどのような変換=介入に対して不変にとどまるのかを考慮することで、様々な状況における進化モデルの対称性・不変性を研究した。この結果は8月のフィンランドでの欧州進化学会(ESEB)で発表した。また後者の学会でのディスカッションを元に国際共同研究を開始し、因果モデルによって様々な進化プロセスを統合的に表す手法に関する論文をスペインの生物学者、科学哲学者と共同執筆した。 哲学的側面に関しては、上述の進化モデルの対称性が進化論の存在論に与える含意を研究した。系の対称性の度合いは、遺伝子間の非線形相互作用に依存する。最も対称性が高い加算モデルでは個々の遺伝子を独立した「存在」と扱えるのに対し、全ての遺伝子がエピスタティックに相互作用する場合の最小単位はゲノム全体(生物個体)となる。この見取り図のもと、ドーキンス流のネオダーウィニズムと、マイア流の集団思考が、進化法則の普遍性/進化単位のスペクトラムの両極として位置づけられることを示し、またEvo-Devoにおける「モジュール」は、そうした「対称性の破れ」として考えられることを示唆した。この結果は7月にオスロで行われた生物学哲学の国際学会(ISHPSSB)で発表された。 またそれ以外にも、進化動態を記述するプライス方程式の因果的解釈における注意点に関する論文を、英国ブリストル大学の哲学者と共同執筆し、英国王立協会紀要の特集号に掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述の通り、研究は計画通り順調に進展している。ただし進化方程式の対称性の数理的分析の結果、多くのモデルは環境変動に対する対称性を持たないことが示されており、この結果をどう解釈するかは今後の課題である。また哲学的側面に関しては、これまで異なる「パラダイム」として水と油のように考えられてきたドーキンス流のネオダーウィニズムと、マイア流の集団思考を、対称性という一つの物差しのうちで統合的に測れるようになったことは、有意義な成果であった。今後は主に物理学の哲学における議論を参照しながら、この法則性と存在論の結びつきに関してより考察を進め、論文化することが課題である。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で示唆された、法則の普遍性/対称性の存在論的含意をより明確にするため、そうした議論の蓄積がある物理学および物理学の哲学を参照する必要がある。特にこれまで得られた対称性、保存量、相互作用による「対称性の破れ」などが、進化の単位という存在論的問題に対して示唆する点をより詳細に検討し、論文へとまとめることが今後の課題となる。 一方、本研究で予定されていた海外研究者との共同研究および海外学会での発表については、昨今の新型コロナウィルスの影響により、当面差し控えざるをえない状況である。そのため今年度は主に国内での調査および執筆に重点をおき、必要な場合はインターネットで海外とのコンタクトを取るなど、柔軟に対応していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末の新型コロナウィルス流行により、予定していた海外出張が取りやめになったこと、また購入予定であったノートパソコンの在庫不足により納品が新年度にずれ込んだことにより、旅費および物品費がそれぞれ予定より下回った。ノートパソコンは新年度予算に計上される予定。
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