昨年度に続き、因果モデルに関する理論的考察と、進化生物学への適用という2側面から研究を行った。 前者については、前年度より行っていた対称モノイダル圏の観点からの因果モデル研究を、因果モデルの同一性に関する考察からさらに一般化し、その定式化が因果性の「プロセス」としての側面をうまく捉えるものであることを明らかにした。またその見方に基づき、古くからの哲学的・方法論的論点であった、因果モデルにおけるマルコフ条件の反例とされるケースが、「コピープロセス」という特殊なプロセスの不在として考えられることを明らかにした。こうした点に関して共著論文を執筆し、Behaviormetrika誌に掲載された。 後者の進化生物学への適用については、プロジェクト当初より続けてきた、因果モデルを用いて種々の進化モデリングを統合する共著論文が、Biological Reviews誌に掲載された。また、因果モデルを進化ゲーム理論と組み合わせることで、様々な進化ゲームの背後にある因果構造をグラフ的に明らかにし、その解釈を容易にすることができることをフィンランドの研究者とともに示した。この結果はPhilosophical Transactions of the Royal Society B誌に掲載された。 全体として、本年度において、当研究の目的として掲げ初年度より進めてきたプロジェクトは一通りの完成を見たといえる。特に、進化生態学への適用という面に関しては、因果モデルを包括的フレームワークを提示することができた上、ゲーム理論への適用という、当初は予見していなかった新たな領域での結果を残すことができた。またこれらはともにヨーロッパの生物学者との共同研究であり、国際的・学際的な共同研究を行うという目的も達成された。
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