研究課題/領域番号 |
19K00272
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研究機関 | 日本医療大学 |
研究代表者 |
森口 眞衣 日本医療大学, 保健医療学部, 教授 (80528240)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 精神療法 / 催眠術 / 霊術 |
研究実績の概要 |
本年度において得られた研究成果は以下のとおりである。 (1)心理学に関する著作の調査:井上円了(以下、井上)の心理学研究における関連箇所を特定し、森田療法の理論的変遷と比較考察するための整理作業を開始した。 (2)「心理療法」分類との比較/「精神療法」に関する類型の再検討:『変態心理』における寄稿論文、および1900年代初頭に心理学研究の対象として展開した催眠術に言及する著作の記述を調査し、森田正馬(以下、森田)が自身の治療法を井上など先行研究による心理学的分類とは異なる分類方式の中に位置づける意図が生まれた時期を検証中である。 (3)迷信撲滅運動との関連:明治末期に2度の流行期を経て「精神療法」あるいは「霊術」と呼称された催眠術などの動向と森田による論文発表時期およびその内容で関連性を調査した。森田は流行第2期の催眠術と接触し他の霊術とも接点をもっていたが、制度取締で「精神療法」に名称変更した流行期後になると催眠術に焦点化して接点を保持し続けた可能性を確認した。森田の催眠術に対し高い関心を寄せつつ、自身の治療法にそれとは異なる新たな位置づけを付与する構想があり、撲滅ではなく比較調査の対象として一定の距離を保ちつつ情報収集をしていたという仮説を構築している。 (4)「禅的森田療法」との関連:弟子らにより禅的理論と関連づけられて変化する以前のオリジナルな理論形態を宗教的要素の影響という視点から考察し、また当時の一般社会において医療的活動を活発化させていた宗教的療法家たちと森田自身との立場に関連する資料調査から、森田が当時の社会的状況では困難の多い「医療的療法家」の立場を堅持しつつ新たな治療法の構築を目指していたという仮説を構築した。 上記成果のうち特に(2)(3)および(4)より、森田療法の成立前段階において森田の情報収集に対する意図を明確化する必要性が強まった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までの成果は本研究の目的に対し、以下の理由から当初の計画を大きく変更することなく次年度の研究に取り組むことが可能であると判断している。 (1)森田以前の心理学研究に対する調査:催眠術と他の精神療法(霊術)への森田の接触度に差があった背景として、医学的要素の比重など何らかの基準をもって振り分ける意図があった可能性を想定する。この点について森田以前の心理学あるいは医学研究における整理状況との比較が不可欠であり、当初の計画では井上円了の心理学研究を予備調査対象として網羅的に遂行する予定であったが、本年度成果により「心理療法」分類研究を端緒とする計画に変更して実施する予定である。 (2)森田と宗教実践的「精神療法」の関係について:森田が催眠術などの「霊術」と接触した時期は、日本の宗教界全体に対し「治病型の実践」規制から多様な変革運動が発生しており、森田は新たな治療法を構想するにあたってこれら宗教的要素の比重が高い実践技法の情報も収集していた可能性が確認できる。当初の計画では破邪顕正運動や禅の国際化運動など仏教を中心に調査対象を特定していたが、本年度成果から更に幅広い宗教運動を視野に入れる必要性が得られている。調査対象の拡大が想定されるため次年度以降で調整する予定である。 上記のとおり本年度では研究成果によって当初の調査計画に修正事項が発生したが、いずれも研究の方向性を変更させるものではなく、むしろ調査対象の整理や明確化に貢献する建設的な事態である。したがって、研究計画の進捗として「遅滞」には該当せず、修正または調整を含めたうえでの「順調な進展」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本課題について今後は以下の点を中心に研究を推進する計画である。 (1)本年度で得られた成果をもとに、森田が新たな治療法を構想した時期における日本近代社会の宗教界および霊術界それぞれで発生した「病気の治療」に関する運動の実態とその背景について調査を進め、森田にとって接触あるいは情報収集が可能となっていた範囲を明確化し、宗教動態史との関連性を中心に考察する。 (2)当時の日本社会で多様に出現・展開した「新たな治療法」最大の特徴は宗教的要素の混入度が高いことであるが、森田は実際に多くの宗教的実践の情報を収集しながらも、その影響をおさえ医療的治療法として創案されたことになる。森田の識別基準解明は現代医療のスピリチュアリティ的展開の分析にも寄与が期待でき、両者の比較を前提とした情報収集を進めて作業仮説を構築する。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していた国際学会出張において天候不順による追加経費の発生、パソコンの故障による入替購入に加え、新型コロナウイルスの発生により当初の計画で予定していた調査出張が中止となり、現地で予定していた書籍購入の計画にも変更を余儀なくされた。シリーズ一括購入の予定を次年度以降に持ち越したことで次年度使用額が発生している。現在は必要箇所の一部をWeb閲覧で代用しているが、作業効率化と計画遂行の優先度を考慮し、購入予定の一部を文献複写・取寄せによる資料入手に変更することを検討中である。 次年度使用額(8,206円)は翌年度分に組み込み、上記の文献複写または取寄せ料金として使用する計画である。
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