研究課題/領域番号 |
19K00272
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研究機関 | 日本医療大学 |
研究代表者 |
森口 眞衣 日本医療大学, 保健医療学部, 教授 (80528240)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 宗教的瞑想 / 医療的瞑想 / ヨーガ / マインドフルネス / 精神療法 |
研究実績の概要 |
本年度において得られた研究成果は以下のとおりである。 (1)宗教的瞑想と医療的瞑想の差異:森田療法との関連が指摘されている「マインドフルネス」にはヨーガや坐禅などの要素を取り入れた「瞑想」が用いられている。その原型となる宗教的実践が臨床適用される前段階で「医療化」現象が発生したという仮説を構築し、まずインドのヨーガ発展史および国際展開史の体系化変遷過程においてマインドフルネスに適用可能な形態が成立した可能性を検証した。この方法論を用いて同様に仏教瞑想(ヴィパッサナー他)についても発展史および国際展開史の体系化における比較を進めており「マインドフルネス」の成立背景に関し「宗教動態との接点」という観点から理論を整理している。 (2)日本の「精神療法」成立と宗教の関係:近代以降の日本における「精神療法」概念の二重化を仏教の歴史的発展の経緯の側面から分析するため、仏教との関連性が高いとされる森田療法と内観療法との比較検証を進めている。両者は成立時期が異なるため、その成立期における日本近代仏教の展開が「精神療法」概念との接点構築に影響を与えた可能性を想定し、概念二重化の分岐が「宗教との距離感」によるという仮説から分析に必要な用語の定義を整理している。 (3)「医療化」の分岐発生点:社会が「宗教的ではない精神療法ツール」の構築を要請する場合に、その前段階で既存の宗教的実践において原型から一定程度の「医療化」が発生している前提が必要という仮説を構築し、過去の事例を用いて検証を進めている。「医療化」の過程に関与する宗教者あるいは医療者の立場が、最終的な「宗教的ではない精神療法ツール」の展開や位置づけにどのような影響を与えるかという観点で理論を整理している。 上記成果から、宗教的実践が医療的実践に「医療化」する過程として宗教動態を整理・検証する具体的な手法の整備が進んだと判断している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度も引き続き新型コロナウイルスの感染拡大状況への対応から出張が困難であり、以下2点の実施予定を延期した。 ①井上円了の「心理療法」分類研究の調査 ②森田療法開発前の日本社会(19世紀後半~20世紀初頭)における宗教動態と精神療法的宗教実践の比較調査 ただし、計画の前倒しとして前年度新たに構築した③日本以外の地域における宗教動態と精神療法的宗教実践の調査として、19世紀後半~20世紀前半におけるインド~欧米でのヨーガの瞑想化/体操化現象に関する収集データから「宗教的瞑想の医療化現象」として理論化をおこなった。なお密接に関連する「仏教瞑想の医療化」についても上記との比較を前提に一定程度の仮説を構築しており、森田療法成立期の社会的変化に関する考察に使用するため理論化を進めている。背景理論の整理を先に進めることで、延期中の①②再開に向け収集データのターゲット焦点化が可能になると考えられ、次年度の研究実施を円滑に遂行するため準備を進めている。 以上の理由から、「当初の当該年度研究計画とは異なる実施状況ではあるものの、前年度における計画再構築により、研究全体としての遅れは取り戻せてきている」と判断した。ただし執筆中論文の一部について投稿予定が年度中に未完了の状況となったこと、延期した調査出張の具体的な計画編成が現時点でも流動的であることから「おおむね順調」とした。
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今後の研究の推進方策 |
新型コロナウイルス感染状況への対応として修正・再構築した研究計画を調整しつつ、前年度まで進めてきた個々の小規模調査を連結する作業に着手する。背景理論となる「医療化」現象の発生を可視化するため、特にこれまで延期してきた「森田療法成立期」となる19世紀後半~20世紀初頭)の調査再開に向け、以下の小規模調査における収集情報の整理と理論化を優先し、今後必要となる調査項目および資料の絞り込みをさらに進める。 (1)日本以外の社会における宗教的実践の「医療化」 (2)19世紀後半以降の日本/国際社会における宗教界および医療界の相互関係 また、本研究課題は全体計画の後半に入っていることから、本研究実施終了後の活用展開に向けた関連予備調査の必要性を想定する。本研究課題として遂行が可能な範囲において、メインターゲット以外を視野に入れた調査事例や理論適用の拡大可能性を検証する作業にも着手する。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度と同様に新型コロナウイルス感染状況への配慮が必要となった。前年度の執行状況を踏まえ、今年度の実施として予定していた国内外での学会発表や資料調査の中止または延期を想定した段階で旅費としての執行計画を早めに見直し、対応策として構築した小規模調査の形態で使用可能な書籍資料の購入や資料整理などの物品費へ変更して執行した。 次年度使用額とした部分の費目は、その大半が資料調査や成果発表の費用として当時想定していた旅費、また成果発表の投稿に関する費用を想定している。現在までの調査で収集した情報と得られた成果をもとに、当初計画していた国内外での資料調査や成果発表の具体的な内容について、実際の社会情勢と予定を踏まえながらすみやかに再検討し、追加/修正を含め適切な執行形態の確保維持につとめる。
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