最終年度にはベルリン州立図書館およびドイツ国立図書館ライプツィヒ館において、19世紀末から20世紀前半にかけてドイツで流行したダウンジングについて、当時のダウジング研究組織の機関誌を中心に一次資料の調査を実施した。2019年度の調査ではSchriften des Verband zur Klaerung der WuenschelrutenfrageおよびZeitschrift fuer Wuenschelrutenforschungを中心とした調査をおこなったが、最終年度の調査ではナチス・ドイツとの関係に着目し、Wilhelm Teudt関連資料などについても調査をおこなった。 古くから行われていたダウジングが19世紀末に注目を集めたきっかけは、都市部の水不足という現実的な問題であったが、予防医学への意識の高まりや、ナチス・ドイツによる先史遺産研究などと結びつき、その目的が多様化していく。本研究は、ある時代・地域における社会の状況を背景として、境界科学(Grenzwissenschaft / border science)がどのように支持を集め、どのように変質していくかという一事例の全貌を明らかにするものである。文化史的な観点からの境界科学の研究は、文化史においても科学史においても取り組んでいる研究者が少ないテーマであり、その点において本研究は先駆的であると考える。また、境界科学の事例は現代社会においても多数存在し、その中には陰謀論などと結びついて社会を不安に陥れるものも少なくないので、その実態を解明することには十分な社会的意義があると考える。 本研究の研究成果は、単著『ペンと振り子』として発表する予定である。
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