研究課題/領域番号 |
19K00275
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研究機関 | 国際基督教大学 |
研究代表者 |
山口 富子 国際基督教大学, 教養学部, 教授 (80425595)
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研究分担者 |
鈴木 和歌奈 京都大学, 人文科学研究所, 特別研究員(PD) (70768936) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ゲノム編集技術 / 言説戦略 / 先端科学技術の社会実装 / ユーザー / 信頼確保 |
研究実績の概要 |
本課題は知識の不在や不確実性に起因する一般市民が抱く先端科学技術への不安感や不信感がどのように解消されようとしているのか、ゲノム編集技術の「農業と食」と「医療」への応用の過程に着目して考察をする。特に、イノベ―ションの社会実装の過程に関与す科学者や行政機構など、いわゆる専門家と呼ばれるアクターの「言説戦略」に着目する。「農と食」と「医療」領域の応用技術は、人の生活や生命に深く関与するという点で共通点を持つが、その応用のプロセスは異なる回路で進められる。その事から2つの領域の比較研究は、学術的にまた実証的に意義深い。このような問題意識を背景に2021年度は予備的なインタビュー調査、問題意識の練り上げを行った。その結果、2021年度に行ったインタビュー調査から、いくつかの傾向が明らかになった。イノベーションの社会実装の回路が異なるのは、単に科学技術研究の内容が異なる、法律や規制が異なるという実在上の問題が作用するだけではなく、新規のイノベーションが社会とどう関わるべきであるのかという観念上の問題とも深く関わる事が明らかとなった。そこから、そうした規範がイノベーションの過程に関与する個人や組織の戦略にどう投影されるのかという観点から、この問題を掘り下げていく必要性が明らかとなった。 第ニに応用領域に関係なくゲノム編集技術の安全の確保、信頼の確保、安心の提供という論点が一つのセットとなり言説戦略が展開するという事が明らかになった。また、ゲノム編集技術を応用したプロダクトを利用すると想定される「想像上のユーザー」を言説に動員する事により信頼確保を試みるという戦略が認められた。他方で「国民への情報提供」や「社会との対話」など、社会との相互作用のあるべき姿やそこから派生する信頼確保の為の装置が応用領域により異なる事も明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度と同様、2021年度も具体的な研究実施項目である(1)インタビュー調査など質的研究によるデータ収集、(2)政策文書の言説分析、(3)新聞記事を中心としたメディア分析を推進する為に、先行研究の継続的な探索とレビュー、政策文書の探索とレビュー、オンライン・インタビュー、研究会の実施や参加を継続し、先端科学技術の社会実装の過程で観察される「社会との相互作用のあるべき姿」について、特に研究開発主体の視点から検討した。併せて、広く研究開発主体が共有する規範を広める為の言説戦略も検討した。 本課題の主要な分析軸として、農業領域と医療領域の比較が上げられる。前者と比較し、後者に関連する実施項目の進捗が前者程スムーズではないが、予備的なインタビューが実施できた事により、今後「雪だるま方式」でデータ収集が加速する見込みである。政策文書の言説分析については、どちらの領域も関連する文書の収集に加え、内容を把握するための文書の精読、キーワードによる文書の分類を完了した。メディア関連のデータ収集は、農と食の領域については完了し、分析を進めつつある。医療領域のデータ収集は、2022年度に重点的に進める予定である。 加えて、2021年の活動の中で特筆すべき成果は、関連する研究を推進する欧州、オーストラリア、アジア太平洋地域をカバーする国際組織の3つの研究グループと連携できたという事である。これまで研究討議、研究会での話題提供、論文執筆などを行っており、今後、本格的な共同研究を視野に入れつつある。本邦においては、国内の動向をリアルタイムで把握する為に、バイオテクノロジーに関連する実務家や政策担当者との情報交換の場に継続的に参加した。併せて、研究成果の社会への還元を強く意識し、これまでに得られた知見を一般向けの雑誌記事、教科書、辞書のエントリーとしてまとめた。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの課題の進捗状況を踏まえ、今後以下の3つの項目を中心に研究を推進する。 (1)インタビュー調査: 前年度と同様、2021年度も対面でインタビュー調査を行う事が難しかったが、徐々にオンライン形式でのインタビューがデフォルトになりつつあり、またオンライン形式のイベントの観察も可能になり、2021年度は、2020年度程データ収集の問題に直面しなかった。今年に入り、国や自治体の行動制限の方針が緩和しつつあるという社会的な変化もあり、2022年度は、可能な限り対面方式でインタビュー調査とフィールドワークを行う予定である。 (2)政策文書の言説分析: 昨年度までに、刊行された政策文書の精読を行い、キーワードによる文書の分類を完了した為、2022年度は詳細分析を進める。ゲノム編集技術の社会実装に関連して現在社会的にさまざまな動きがある為、2022年も継続的に文書の探索を行う。 (3)新聞記事を中心とするメディア分析: 農と食の領域について収集したデータの分析を完了する。医療領域のメディア関連データは、所属大学の図書館が所蔵するデータベースを活用しデータの収集を行う。2022年度中にはデータ収集を完了し、分析に着手する計画である。 本課題から得られた研究成果を関連する国内外の研究や社会活動の中に位置づける為に、先述の3つの研究実施項目に加え、継続的に国外の研究グループとの意見交換や研究会への参加などを行う。また、関連する国内の自然科学系の研究グループ、また人文・社会科学系の研究グループの研究会に参加し、本課題から得られた知見を報告する。そこで得られたフィードバックから最終年度の研究成果の骨格作りをする。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ感染症により計画をしていた国際研究集会への対面参加が困難となり、翌年度に予算を繰り越す事とした。繰り越された予算については、2022年度の国際研究集会への参加に係る経費、図書、資料等の物品費、データ収集を加速させる為のアルバイト代に充当する。
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