研究実績の概要 |
本研究は, 高速増殖炉(以下FBR)の廃止措置の歴史について, 国際的に比較検討するものであるが, コロナ禍によりドイツでの資料調査が実施不可能となったため, 昨年度フランスで収集した資料に基づいて,フランスとドイツの比較を行った。また国際比較の対象として,日本のFBR開発と廃止措置の歴史について資料収集とインタビューを実施した。 1) フランスとドイツの比較:FBR実験炉ラプソディー,原型炉フェニックス,実証炉スーパーフェニックスが臨界に達し,FBR開発を推進し続けたフランスとは対照的に,ドイツでは実験炉KNK-IIは臨界に達したが,原型炉SNR-300は臨界に達する前に閉鎖が決定した。両国を比較した結果,以下の点を明らかにした。①フランスは核保有国であり,核の軍事利用と民事利用を一体の形で推進して来たが,核保有国ではないドイツは, 民事的な観点でFBR開発をとらえていた。②フランスが中央集権主義に基づき包括的にFBR開発計画を遂行したのに対し,ドイツは地方分権主義に基づいた判断によりコストのかかる大規模なFBR計画を遂行できなかった。③フランスの原子力開発は独自のエリート教育を受けたテクノクラートにより推進されてきた。彼らは,自国の伝統的な原子物理学の科学的貢献を誇り,FBR開発で世界の頂点に立つという強い意志により研究に邁進した。 2) 資料収集:日本原子力研究所史, 動力炉・核燃料開発事業団史, 核燃料サイクル開発機構史等,JAEAに至るまでの研究所史を可能な限り収集し,また日本原子力学会誌等に掲載された論文,JAEA図書館保管資料を基にその歴史を調査した。 3) インタビュー:日本の高速増殖炉開発に関わった技術者の一人として,JAEA竹内則彦氏へのインタビューを実施し,主に高速増殖炉開発における日仏協力,フランスの高速増殖炉開発に関する評価についてご意見を賜った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度は, ドイツでの廃炉視察と資料収集を予定していたが, コロナ禍の影響で実施できなかった。また同様の理由で昨年度春季休暇を利用して実施予定であったフランス・ショーにある解体中の原子炉の視察については今年度も実施できなかった。廃炉の実態を知るためには現地調査が必須であるが, 新型コロナウイルスの変異株も新たに出現し, 現時点でも実施の見通しが立っていない。フランス・ドイツともに長期間ロックダウンとなったが, 日本の緊急事態宣言とヨーロパのロックダウントとは質が異なっており, 例えばフランスでは自宅から10km圏外への移動は、相応の理由がない限り禁じられる。そこで, 研究所に問い合わせても研究者との連絡がつかず, アーカイブズ職員も自宅勤務となっているので資料調査を依頼することができなかった。さらに, 原子力資料に関しては極秘内容が含まれるため,実際に資料室内にて閲覧調査が可能なものがほとんどであるため新資料の収集が不可能であった。 一方, 昨年度の夏季休暇にフランスで収集した資料を基に, フランスとドイツのFBR開発史の比較を検討し, 核保有の有無, 政治体制の違い, フランス独自のテクノクラートの存在から両国の違いを分析した。また海外での実地調査と資料収集ができなかった点を日本のFBR開発に関する資料調査とインタビューで補填し, その結果を日本物理学会等で発表した。特にFBRに関する日仏協力に関しては, これまでの拙研究ではフランス側の観点に基づいた分析に偏っていた点を日本側の観点に立つ分析を加えることで修正した。またJAEA図書館保管資料を活用することにより, 日本の観点でフランスやドイツのFBR開発を評価するという新たな見地を見出すことができた。
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度は, 夏季休暇中8月下旬から9月中旬までは, ドイツの原子炉廃止措置に関する資料収集とオプリヒハイムにある解体中の原子炉の視察を行う予定であったが, コロナ禍により視察の実施と資料取集ができず, また令和3年度も海外視察と資料調査は非常に困難であると予想される。今年度はドイツの原子力政策史に詳しい大阪大学の木戸衛一先生や若尾祐司先生を通じて, 関連原子力機関から資料を収集する準備をしたが, ドイツのロックダウンにより研究所との連絡がつかず, 専門家へのweb meetingによるインタビューをするまでには至らなかった。資料提供依頼を継続し, 可能な限り資料を収集したい。 同様にフランス原子力庁アーカイブズにおいても、ロックダウンのためアーカイブスが閉鎖し, 今年度はデジタルデータの入手が不可能であった。しかし, 同アーカイブス所長のMme Frossardと担当アーキビストMme Delmasへ資料提供の依頼をした結果, 過去の調査実績をふまえ, ある程度の資料を提供して頂けることになったので, 両氏のご協力を得て, 可能な限り資料を収集したい。 海外視察が困難であるため、国際比較の中に占める日本のFBR開発と廃止措置の割合を増加させる。JAEAへ依頼することにより, 廃止措置中のもんじゅの視察を行い, JAEA図書館保管資料調査を継続する。収集した資料については, 必要文書・写真等を夏季休暇前にデータベース化する。収集した資料を基にFBR開発と廃止措置技術の歴史に関するおける日仏比較, 日独比較について, 2021年9月の物理学会秋季大会と年度末3月の日本物理学会で研究成果を発表する。同時に科学史学会誌掲載論文の執筆を遂行する。
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