研究実績の概要 |
本研究課題の目的は、これまでほぼ看過されてきた原発PR施設を対象に、メディア論の立場からその実態を把握し、国際比較を通して、原発PR施設におけるコミュニケーションを多角的に検討し、その特質を明らかにすることにある。原発PR施設という場を媒介に、原発と人びとがいかに結合ないし切断されているかを把握し、全ての人に開かれた議論の場の構築への一助としたい。このような問題意識にもとづき、第1年度にあたる2019年度は主に文献調査と第1回のアメリカ現地調査を実施した。 文献調査では、アメリカにおける原発PR施設の現況を俯瞰的かつ網羅的に把握することをめざした。PR施設や原子力広報にかんする文献を渉猟するとともに、インターネット上の情報も含めて調べあげ、全米に散在する諸施設の情報を所在地ごとにプロットし、詳細な地図にまとめた。この地図をもとに調査計画を立案し、2019年8月から9月にかけて第1回アメリカ現地調査を実施した。調査地域はアメリカ本土の南半分にあたる14州(CA, NV, NM, TX, LA, MS, AL, GA, TN, SC, NC, KY, IL, MI)で、20か所以上の施設を訪れて実見した。調査結果から、アメリカにおける原発PR施設は、全体として日本のそれに比して質量ともきわめて乏しいことが明らかになってきた。 後述するように、2020年度および2021年度は、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)をめぐる状況悪化のため予定していた現地調査が実施できなかった。その間、調査計画を練り直しつつ、併行して、収集した資料や撮影した写真の整理を進め、成果の一部を論文にまとめる作業をおこなっており、アメリカ原発PR施設の特徴を、原子力関係ミュージアムとの比較をとおして明らかにしつつある。成果の一部は、国際学会での発表や論文の形で社会に発信されている。
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