研究課題/領域番号 |
19K00281
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研究機関 | 明治学院大学 |
研究代表者 |
加藤 秀一 明治学院大学, 社会学部, 教授 (00247149)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 非同一性問題 / 生殖倫理 / 生命倫理 / ゲノム編集 / 生殖テクノロジー / 遺伝子テクノロジー / 未来世代 |
研究実績の概要 |
生殖倫理にかかわる諸問題の現状をふまえつつ、それらに内在する「非同一性問題」を哲学的に検討する作業を継続した。具体的には、①ロングフル・ライフ訴訟、②ミトコンドリア移植を利用した不妊治療、③生殖細胞系列へのゲノム編集、等である。中でも③は、近年最も顕著な動きのある領域であり、学術的な対応も進んでいる。日本学術会議哲学委員会いのちと心を考える分科会が2020年8月に提出した報告書「人の生殖にゲノム編集技術を用いることの倫理的正当性について」はその象徴的な成果の一つである。ただしこの報告書は、人間の尊厳に立脚する伝統的な生命倫理学の観点から生殖テクノロジーおよび遺伝子テクノロジー全般の濫用に警鐘を鳴らす試みとして大きな意義があると認められるものの、非同一性問題にほとんど関説することなく、したがって未だ存在しない未来世代に対する既在世代の「責任」云々という難問についても、哲学者H・ヨナスの思想を紹介するにとどまり、哲学的な議論の深化をなしえたとは言えない。それゆえ、本研究はなおも大きな意義をもつ。 本研究の視点そのものの有効性は、上記のような特定のテクノロジーおよびその応用形態に限定されるものではなく、およそ「未在者に対する貴在者の関係」が問題となりうるところ、すなわち「生殖」と呼ばれる領域全体に及ぶものである。近年、学術領域を超えた社会的議論のタームとして定着している「優生思想」や「生命の選別」等に関してもそのことがあてはまる。たとえば「生命の選別」が悪しきことだとされるときに、その「被害者」は誰なのか、既在者の病気を治療することとの異同いった問題が精緻に論じられることは皆無に等しい。そうした言説は現状を検証するための問いかけとしては有意義だが、議論そのものを深化させるものではない。それは本研究の果たすべき役割である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
非同一性問題は現代の分析的哲学・倫理学がとりくむ難問の中でも極め付きの難問として知られるが、検討作業を進めるにつれ、その十全な解明のためには、人々の時間意識について、とりわけ言語と時間との関わりについての検討が必要不可欠であることがわかり、言語学領域の文献の渉猟に時間がかかっている。また、Prior以降の時制論理学の摂取も予定通りのスピードでは進められていない。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は本研究の最終年度(延長済)にあたるが、「研究実績の概要」に記した作業を期間満了まで継続する。方針上の大きな変更はない。 なお本研究の中心的なアイデアについては2019年度中に雑誌『現代思想』掲載論文においてまとめたが、その内容をベースとした英文での学会報告を今年度中に予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス禍のため、昨年度までに計画していた海外学会出張を全く実現することができず、旅費として予定していた金額を執行することができなかった。そのため、研究期間を一年延長し、今年度に執行することにした。
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