本研究は、遺伝学・ゲノム学にかかわる言説、とりわけ「非同一性問題」と呼ばれる存在論的パラドックスにかかわる言説の分析を通して、「人々の形而上学」(世界の基礎的な構造や基礎的な存在者の概念についての一般人たちによる理解)の一端を明らかにしようとした。その結果、「非同一性問題」は世代間倫理学の専門家による議論においては重要視されているものの、大衆的言説においてはしばしばそれとは無頓着な仕方で出産や出生について語られていること、そしてそうした違いは、「人の同一性」にかかわる存在者の貫時間的な同一性に関する理解の差異に淵源することを明らかにした。
|