研究実績の概要 |
ギリシャ幾何学文献におけるラベル(点の名前)は,個々の点が本文で初めて言及される時点で,アルファベット順に命名されるのが通常であるが,本研究の対象である『円錐曲線論』のラベルの割り当てを調査した結果,点や線の配置がほぼ同じで一部の条件が異なる一連の命題において,同じ役割を持つ点に同じ文字が割り当てられる例がかなり多く見つかった.この場合,アルファベットの途中の文字が使われずに飛び越されたることも当然起こる.また命題冒頭の言明(protasis)は,ラベルを用いずに述べられるのが通例であるが,そこで「Κ, Λの代わりにΓ, Δがとられたとしよう」のように完全に図とラベルに依存した表現も散見される.いずれも,円錐曲線論がかなり複雑な図形を扱い,またギリシャ幾何学のスタイルの制約から,一部の条件が異なるだけの命題を多数証明する必要があることが原因と考えられる. これに関連して,通常はラベルとして用いられない文字I(イオータ)が用いられる命題が見られる.なお,イオータが用いられる命題でも,点の数が多すぎてギリシャ語アルファベットでイオータを除く23文字で足りないというわけではない.イオータを用いる命題は異なる起源を持つのかもしれない. 以上のようなアノマリーをさらに詳細に調査することによって,『円錐曲線論』の命題が,どのように整理・分類されていたのかを解明できる可能性がある. ただし『円錐曲線論』のギリシャ語テクストと図版は6世紀のエウトキオスによって整理・校訂されたものであり,どこまでが原著者アポロニオスによるものかの判断は困難という限界はある. 図版描画プログラムDRaFTの改良については,予定していたイタリアでの研究打ち合わせがまだ実施できていないため,研究期間を延長した.改良点はほぼ確定したので,延長期間中に改良版を完成させたい.
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