交付申請書に記載した項目ごとに、4年め(延長分)の研究実績の概要を報告する。昨年度に報告した通り、コロナウィルス蔓延の影響下(3)を主軸に据えることで研究を進めたが、最終年度は(1)に関連して国内調査についても積極的に行なった。 (1)森田思軒訳および黒岩涙香訳の作品についての原著の解明―原著解明のための海外調査できなかったが、かわりに、笠岡市が管理する『郵便報知新聞』の編集者だった時期の森田思軒関連書簡について、新規に調査・撮影したものの分析・考察を行なった。 昨年度延期になり今年度開催された笠岡市主催・森田思軒顕彰会における講演で、これまでの調査の概要を報告し、地域文化振興に還元することができた。 (2)国際的視野に立った森田思軒訳および黒岩涙香訳の新聞小説/翻訳小説の位置づけ―これについても海外調査が難しかったため、(1)と(3)に振り替え、次年度(新規採択課題)への継続的課題とした。 (3)思軒以降の文学者と新聞編集の関係について考察するための視座の獲得―『国会』の新聞記事と幸田露伴との関連について、シカゴ博覧会関連記事と新聞読者についての論文を公表した。 今回が最終年度となるが、海外調査を主とした課題だったため難航した。とくに黒岩涙香については、調査成果を出すことが難しかった。一方、研究の主軸を国内での調査へと振り替え、結果、近代文学の名作とされる作品が、初出当時、新聞メディアのなかで読解されることで、文学の立ち位置を上昇させていった状況を明らかにすることができた。また現存する思軒の書簡類が、当時の新聞・出版に関係する情報を多々含むことに注目した調査を進める方針を立て、これも継続の課題とすることとした。全体的に計画の大きな変更を余儀なくされたが、調査範囲の拡充を目指し、課題に関する視野を広げることができたと考えている。
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