研究課題/領域番号 |
19K00293
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
大木 志門 東海大学, 文学部, 教授 (00726424)
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研究分担者 |
掛野 剛史 埼玉学園大学, 人間学部, 教授 (00453465)
高橋 孝次 帝京平成大学, 現代ライフ学部, 講師 (20571623)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 戦後文学 / 自筆資料 / 高度経済成長期 / 出版文化 / 水上勉 |
研究実績の概要 |
本年度は研究の3年目であり、ここまでの基礎的研究を受けながら発展的研究活動を行ってゆく計画であった。当初の予定では、長野県東御市の水上勉旧居への調査を4回程度行い、前年度までに完成していた約2,000点強の資料データベースの追加調査を行う計画であった。しかし本年度も新型コロナの感染が収まらず、勤務校でも引き続き不要不急の出張が制限されたため、現地調査を諦めざるを得なかった。 そのかわりに、本年度は研究成果の発表に注力することとし、前年度に完成させた水上勉の昭和30年代の仕事、特に「社会派推理小説」を執筆していた時代の著作リストおよびその過程で収集した作品の書籍および雑誌コピーを元にして、2冊の『水上勉社会派短篇小説集』(田畑書店)を研究グループで編み、分担して解説および作品紹介を執筆して刊行した。これにより、水上の中間小説期の作品群とそれ以降の作品群との比較分析が可能となり、今後の研究基盤を整備することができた。また水上の直木賞受賞作「雁の寺」(1961年)以降の私小説的作品と社会派推理小説時代のモチーフの連続性を具体的に証明することが出来たと考える。 さらにこれと平行して、研究代表者は前記の社会派推理小説をはじめ、純文学的自伝小説、社会派評伝文学、仏教評伝などを貫通する水上の小説方法を整理・分析し、それを「私」を活用する方法として定義づける論文を発表した。 次年度以降は、新型コロナで停止している現地での資料調査を今度こそ再開するとともに、さらなる周辺事項の調査を行うことで、資料の学術的意義や、位置付けを検証してゆく予定である。資料の全体像を明らかにし、その概要を積極的に公開してゆくことで、本資料群が有する多岐にわたる研究上の可能性をいっそう引き出すことに努めてゆきたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究課題は、これまで、その調査対象としている水上勉資料の所蔵者である水上勉遺族との協力関係のもとに研究活動を進めてきた。本年度もまた同者との関係を良好に保ちながら、全面的に協力してもらうことで研究活動を継続する計画であったが、新型コロナの感染が収まらなかったため、勤務校でも原則不要不急の出張が制限され、前年度に引き続き現地調査を一度も行うことが出来なかった。数百点の資料の撮影と調査を予定していたが、その分を全く進めることが出来なかった。 本研究の最大の軸は上記の資料調査であるため、そこが行えなかったことは非常な痛手であった。また、作家関係者への聞き取り調査も同様の理由により行うことが出来なかった。 以上の事情のため、調査済みの資料を元にした研究を主に行うことで、その分野では前年度以上の成果を出すことが出来たと考えるが、全般的な研究の進展状況としては前年同様に、やや遅れていると判断せざるを得ない。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題がその研究の対象としている水上勉旧蔵資料には、5,000点を越える資料が所蔵されている。当該資料の整理・撮影・データ化の作業は昭和20年代から30年代の資料がおおむね完成している。令和4年度も新型コロナの感染状況を見ながらではあるが、現地調査を再開し、昭和40年代以降の資料を中心に整理・撮影・データ化を進める計画である。当初見込んでいた以上に膨大な、かつ重要な資料が存在するため、なるべく多くの資料を調査し、データ化を推進する予定である。このことは資料所蔵者および研究グループ内でも意思確認がなされており、可能な限り早急に第一回の調査を行うつもりである。 ここまでの調査の過程で、水上勉の本格的な文壇活動期にあたる昭和30年代から50年代にかけての文学的活動の詳細を知ることができる多くの資料が発見された。特に異稿を含む代表作の草稿類が多数見つかっており、翻刻や資料紹介などの準備を進めてきた。特に水上が社会派推理小説『霧と影』(1959年)で二度目のデビューをして以降数年間のミステリ作家時代の文学的業績は、後の純文学中心的な研究動向ではほとんど明らかになっていないが、この時代の資料の存在を調査することで、その後の創作とつながる作家の方法の過程を明らかにしてゆきたいと考えている。 また、その検討対象をその後の仏教評伝などにも広げて、総合的な検証を行ってゆきたい。さらに本年度は全く行うことができなかった、生前の水上を知る人物たちへの聞き取り調査や、水上の足跡を跡づけるための作品舞台の現地調査も行う計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度も新型コロナの感染が収まらなかったことにより、中心的な研究活動である長野県東御市における資料調査を全く行うことが出来なかった。また、補助的な研究計画であった海外や国内における現地調査や、各地にいる作家の関係者の聞き取りも行うことが出来なかった。よって、出張費をほとんど使うことがなかったため、予算に大きな余りが生じた。 今後の使用計画としては、上記の調査活動を再開させることさえできれば出張費として消化できる計画である。具体的には3回から4回の資料調査、および2回から3回の現地調査の計画がある。 ただし、新型コロナの状況が改善しないようなら再び出張が不可能となるため、研究年度の延長も視野に入れながら計画を適宜修正しつつ行ってゆく予定である。
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備考 |
その他、下記の新聞記事があり。 掛野剛史(署名記事)「コロナ時代に水上勉を思う」『埼玉新聞』4面、2022年2月10日/大木志門(インタビュー)「大衆性と文学性 絶妙に調和」(特集「飢餓海峡」 1963年刊・水上勉 )『朝日新聞』夕刊3面 2021年12月8日/紹介記事「水上勉「奥能登の塗師」など9編収録 社会派短編集「無縁の花」出版 」『北陸中日新聞 』文化面、2021年11月20日
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