研究課題/領域番号 |
19K00293
|
研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
大木 志門 東海大学, 文学部, 特任教授 (00726424)
|
研究分担者 |
掛野 剛史 埼玉学園大学, 人間学部, 教授 (00453465)
高橋 孝次 帝京平成大学, 人文社会学部, 講師 (20571623)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 戦後文学 / 自筆資料 / 高度経済成長期 / 出版文化 / 水上勉 |
研究実績の概要 |
本年度は研究の4年目であり、当初の計画では最終年度にあたり、ここまでの基礎的研究を受けながら発展的研究活動を行ってゆく計画であった。しかし新型コロナの流行により現地での調査が行えない状況が続き、研究計画の大幅な見直しを余儀なくされた。その状況を受けて研究グループで協議を行い、研究年度を令和5(2023)年度まで1年間延長することを決定し延長申請を行った。 本年度はようやく新型コロナの感染の状況が落ち着き、3年ぶりに長野県東御市の水上勉旧居での現地調査を再開することができた。そこで本年度はしばらく停止していた資料整理と調査を中心に据えることとし、また今後の研究の効率化を考えてまずは大量に存在する資料群を大まかに分類する整理作業を最優先することを選択した。春・夏・秋と三度にわたる現地出張を行い、特に8月に行った調査では複数の大学院生をアルバイトとして雇用し、人手が必要とされる資料の移動や整理を大幅に進めることができた。その結果、水上勉当人の書籍、蔵書、掲載紙誌類の分類整理はほぼ完了し、残りは草稿や書簡類などの分類作業が中心となった。またこちらも3年ぶりに作品の舞台の調査も行うことができ、水上の京都時代の寺社および軍隊関連のゆかりの場所を訪れることができた。 次年度は、あらためて研究の最終年度として、資料整理を完成させるとともに、今後の調査研究の基盤を完成させることを目標とする。あわせて本年度はやや止まっていた研究成果の公開を再び促進したいと考えている。そのためにはさらなる周辺事項の調査を行い資料の学術的意義や位置付けを検証してゆくことで、本資料群が有する多岐にわたる研究上の可能性をいっそう引き出すことに努めてゆきたい。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究課題は、これまで、その調査対象としている水上勉資料の所蔵者である水上勉遺族との協力関係のもとに研究活動を進めてきた。しかしここしばらく新型コロナの感染がなかなか収まらなかったため、勤務校でも原則不要不急の出張が制限され、なかなか現地調査を再開することが出来なかった。本研究課題の最大の軸は上記の資料調査であるため、実質的に本研究計画全体に大きな遅れが生じることとなった。 本年度になってようやく現地調査を再開することができたが、やはりここまで2年間の遅れを充分に取り返すことは難しく、4年間で予定していた資料整理を完了することが出来なかった。また、今年度は現地調査の進捗を第一に考えたため、その成果の公開という面ではなかなか充分に行うことができなかった。 以上のような事情のため、全般的な研究の進展状況としては前年同様にやや遅れていると判断し、またこれらの状況から判断して研究期間を一年間延長することを決定した。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究課題がその研究の対象としている水上勉旧蔵資料には、5,000点を越える資料が所蔵されている。当該資料の整理・撮影・データ化の作業は昭和20年代から30年代の資料がおおむね完成している。令和5年度も新型コロナの感染状況を見ながらではあるが、本年度再開した現地調査を複数回行い、昭和40年代以降の資料を中心に整理・撮影・データ化を進める計画である。当初見込んでいた以上に膨大な、かつ重要な資料が存在するため、なるべく多くの資料を調査し、データ化を推進する予定である。またデータ化の前に分類整理が必要であるため、まずはこの作業を第一に終えることを目標とする。このことは資料所蔵者および研究グループ内でも意思確認がなされており、今年度も大学院生の補助を付けるなどして可能な限り早急に調査を行うつもりである。 ここまでの調査の過程で、水上勉の本格的な文壇活動期にあたる昭和30年代から50年代にかけての文学的活動の詳細を知ることができる多くの資料が発見された。特に異稿を含む代表作の草稿類が多数見つかっており、翻刻や資料紹介などの準備を進めてきた。水上が社会派推理小説『霧と影』(1959年)で二度目のデビューをして以降数年間のミステリ作家時代の文学的業績や出版社時代のことはほとんど明らかになっていないが、この時代の資料の存在を調査することで、その後の創作とつながる作家の方法の過程を明らかにしてゆきたいと考えており、学会での研究発表も準備している。 また、その検討対象をその後の仏教評伝などにも広げて、総合的な検証を行ってゆきたい。さらに生前の水上を知る人物たちへの聞き取り調査や、水上の足跡を跡づけるための作品舞台の現地調査も行う計画である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナの感染によって2年間停止していた、本研究課題の中心的な活動である長野県東御市における資料調査を本年度ようやく再開することができた。ただし、ここまで2年間にわたりほとんど出張ができなかったため、前年度までに出張費に大幅な残額が生じていた。また研究状況の遅れから研究期間を1年延長することに決定したため、次年度の出張費を確保する必要があり、意識的に次年度に予算を繰り越した側面もある。 次年度の使用計画としては、上記の調査活動を本格的に再開させ具体的には3回程度の資料調査、および2回から3回の現地調査の計画がある。また資料整理用の保存容器の購入や、学生アルバイト数名を雇用する計画であり、次年度でほとんどの予算は消化できる見込みである。
|