最終年度にあたる今年度は、蝶夢については、これまでの研究の集大成として『蝶夢全集 続』(田中道雄他との共編著、和泉書院)を刊行した。支考については『俳諧十論』の注釈を終え、その成果を順次公開した(2020年10月から毎月連載継続)。また、支考と惟然の「軽み」理解について、シンポジウムにて発表した(俳文学会東京研究例会、2022年9月)。さらに、支考に加え同門の野坡の「思想としての俳諧」理解について公開講演を行った(江東区芭蕉記念館・俳文学会東京研究例会共催、2023年2月)。そして、発表順序は逆になったが、上記の研究成果を踏まえ、芭蕉の『笈の小文』『おくのほそ道』の序文を「思想としての俳諧」の視点から読み解いた(日本近世文学会2022年度春季大会、2022年6月)。 研究期間全体を通じた研究成果は以下の通りである。1、芭蕉晩年の俳諧観の本質が「思想としての俳諧」にあることを明らかにした。2、芭蕉俳諧の本質を論じ、後世に大きな影響を与えた支考の俳論『俳諧十論』の全注釈を行った。3、支考が芭蕉晩年の俳諧観を「思想としての俳諧」として本質的に理解、継承したことを明らかにした。4、惟然、野坡、其角ら芭蕉の直弟子たちに「思想としての俳諧」が共有されていたことを明らかにした。5、蝶夢が「心の俳諧」「実の俳諧」として、芭蕉の「思想としての俳諧」を本質的に継承したことを明らかにした。6、支考から美濃派を通じて、蝶夢から蕉風復興運動を通じて、「思想としての俳諧」が他の俳人へと継承展開されたことを明らかにした。 以上の成果は、芭蕉・蕪村・一茶を頂点とした発句中心の従来の俳諧史を、「思想としての俳諧」という視点から再構築するための基礎となると同時に、「俳諧とは人間にとってどのような意味と価値を持つ言語行為なのか」という俳諧の本質解明にとって、重要な意義を有するものである。
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