研究課題/領域番号 |
19K00297
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
中島 貴奈 長崎大学, 教育学部, 准教授 (10380809)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 日本漢文学 |
研究実績の概要 |
2019年度はまず、高啓と日本文学に関する先行研究の収集と整理をおこなった。そして、『高青邱集』(中国古典文学叢書)にまとめられている高啓の伝記や詩評、評語をもとに中国における高啓の評価を整理し、それらのうち江戸時代における高啓の評価に影響を与えたと考えられるものについて和刻本の出版状況などをもとに考察を行った。中国において高啓は「唐の体裁を受け継ぎ」「元詩の風を一変し」た詩人と評され、その詩風は「邁逸」「超逸」といった語で表されることが多い。こうした高啓の評語やイメージは、日本における高啓の評価にも影響を与えたことが予想される。 さらに、江戸時代末から明治期にかけて高啓の詩集としては最も流布したといってよい『高青邱詩醇』の斉藤拙堂序文からは、先述のような高啓評を受けて拙堂も「高逸」と評していること、また『唐宋詩醇』の続編として、当初高啓のみでなく元好問や李夢陽ら5人の「詩醇」の計画もあったことがわかった。実際に刊行に至ったのは高啓のみであり、こうした事情についてはなお考察が必要である。 なお高啓についての研究を進める中で、同時代の文人方孝孺の文章も多く読まれていることがわかった。これについては特に、歴史上の人物豫譲について論じる文章に着目して江戸時代の豫譲評への影響について考察した。方孝孺は、その義臣としての姿にも注目されており、これは夭折の詩人というその人生もあわせて愛読された高啓と類似する。高啓と同時代の明初の文学者の影響を明らかにできたことは、今後高啓詩の受容について考える上で意義あるものと思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度は、高啓を初めとする明初の文学者たちが日本文学に与えた影響についての考察がメインとなり、「高啓詩の受容」という本来のテーマから少しくずれてしまった点は否定できない。しかし高啓以外の明初を代表する文学者たちの詩文の江戸漢詩文への影響を明らかにできたことは、今後高啓の受容を考える上で大きな意義があると考えている。 また、中国における高啓の評語やイメージを特定し、それが日本にそのまま持ち込まれていたことが確認できるなどの成果をあげることができたため、おおむね順調に進展しているといってよい。ただし、移動が制限され、関連資料の閲覧収集がかなわなかったため、多少の研究計画の変更を余儀なくされた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、江戸時代に出版された高啓の詩集を整理し、出版に至った経緯や収録作品の選定方法等について考察を行いたい。さらに、江戸時代における高啓詩受容の具体的な様相を明らかにするため、まずは『高青邱詩醇』出版に深くかかわった斉藤拙堂・梁川星巌・菊池渓琴らの詩文から探って行く。
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次年度使用額が生じた理由 |
3月に予定していた資料閲覧及び収集のための出張が、コロナウィルス感染拡大のために業務先の図書館が臨時休館となったこと等により、中止となったため次年度の使用額が生じた。次年度予定していた資料収集及び閲覧のための出張を行い、使用する計画である。
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