研究課題/領域番号 |
19K00305
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研究機関 | 立正大学 |
研究代表者 |
渡邉 裕美子 立正大学, 文学部, 教授 (30713078)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 定家 / 歌論書 / 偽書 / 毎月抄 / 書簡体 |
研究実績の概要 |
コロナ禍以前に調査を終えた『毎月抄』諸本について、昨年度末に校本を公刊でき、それに基づいて研究を進めた。 大きな研究成果は、2020年開催予定だったEAJS(ヨーロッパ日本研究協会)の国際研究集会が1年遅れで、2021年8月25日~28日の4日間にわたってオンラインで開催され、そこに参加できたことである。「Frauds, Forgeries, and Newfound Works」というタイトルでパネルを組み、ペンシルバニア大学のジュリー・ネルソン・デイビス氏(美術史)、イエール大学大学院生のパウラ・カーティス氏(歴史学)に、Convenerのブリティッシュ・コロンビア大学のクリスティーナ・ラフィン氏を加えた4人で、発表の準備のため、メールで意見交換を続け、8月28日に発表を行なった。 個人としての発表内容は、従来、定家の歌論書として扱われてきた『毎月抄』が偽書であるという立脚点から、定家著であることが確実な『近代秀歌』と比較しつつ、書簡体というスタイルをとることの意味を明らかにした。『近代秀歌』が源実朝に献呈する歌論書として作成されたため、書簡体の定義を曖昧にしたまま、『近代秀歌』が書簡体として扱われることがしばしば見られる。しかし、当時、実際に用いられた書簡と比較すれば、『近代秀歌』が書簡体でないことは明らかである。一方、『毎月抄』は書簡体を意識的に選択している。そこには師である定家から特別な弟子に贈られる大切な奥義を垣間見ることができると、読者に思わせる効果が期待されていたと考えられる。 歴史学や美術史の偽書・偽作・偽文書について、それぞれの分野を専門とする研究者と意見交換しつつ発表内容を詰めることで、『毎月抄』という中世の歌論書の性格を新たな視点から捉えることが可能となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度に引き続きコロナ禍によって移動を制限されていたり、そもそも古写本の所蔵者である図書館や文庫などが閲覧を制限しているため、予定していた『毎月抄』をはじめとする歌論書の諸本調査はまったく進まなかった。諸本調査を基盤として、歌論書の影響関係など内容的な研究を進めようと考えていたため、研究全体の進行が遅れ気味である。
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今後の研究の推進方策 |
移動制限は徐々に緩和されてきているため、状況を見つつ、遅れている『毎月抄』の諸本調査を再開したい。既に終えた諸本調査だけでも、大きく2系統に分類されている伝本の性格や、新出時に注目された冷泉家時雨亭文庫本の特徴については、ある程度の見通しは得られているため、今年度の調査を加えてまとめて発表したいと考えている。 また、諸本調査に基づいて、『毎月抄』との影響関係が指摘されている鵜鷺系偽書との関係の見直しを進めたい。同時並行的に『毎月抄』の注釈を行なうつもりである。 さらに、昨年度、口頭発表した『毎月抄』の書簡体として特質については、まだ論文としてまとめていないので、早急に成稿を目指したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍により、ベルギーで開催される予定だった国際研究集会がオンライン開催になったことで、旅費滞在費を使用しなかったことが主要因である。その他、カナダのブリティッシュ・コロンビア大学における研究会に参加を予定していたが、それもキャンセルになり、また国内の伝本調査もまったく行うことができなかったため。
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