今年度は、主たる研究対象である『毎月抄』に直接関わる論考としては、2本を成稿した。いずれも公刊は、研究期間終了後の2023年度になってしまうが、期間全体で進展した研究を踏まえた内容となっている。 1本は、「『毎月抄』の〈読者〉考」(『古典文学研究の方法と対象』花鳥社、2023年秋頃刊行予定、現在校正中)で、『毎月抄』が後代の偽書であることを前提にして、その読者像を探った論である。これまで『毎月抄』を論じる際に、定家真作とする場合には、誰に贈られた歌論書なのか、ということが問題となってきたが、偽書とする場合には、どういう読者を想定しているか、ということはほとんど論じられてきていない。その問題に切り込んだ論である。もう1本は、postmedieval誌から投稿依頼を受けて、「Those who listen to Teika’s ‘voice’:the author and the reader of poetry treatise forgeries in medieval Japan」という題目で準備中である。採用されれば2024年初めに刊行される予定である。こちらは『毎月抄』が書簡体をとることの意味を探ったものである。この投稿依頼は、2021年にEAJSで口頭発表を行ったことが契機となっている。 研究期間全体を通しては、コロナ禍の影響を大きく被って、伝本調査ができなかったことが悔やまれる。伝本調査は今後も継続して、なるべく早い持期にその結果を発表したい。ただし、制約があるなかでも伝本調査をわずかながら進めることはでき、それに基づいて、従来ない視点から論考を組み立てることが可能となった。今後、公刊予定の2本の論考に、その研究成果を十分反映することができた。
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