研究課題/領域番号 |
19K00309
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
増田 周子 関西大学, 文学部, 教授 (30294664)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 河童伝説 / 行橋市 / 蕎麦の花 / 政治利用 / 雲南・フーコン戦 / 戦車 / プロパガンダ / 水木しげる |
研究実績の概要 |
本年度は、昨年の研究を進展させ、火野葦平文学研究を行った。火野葦平の研究は、河童の伝承をふまえた作品群の研究と、雲南・フーコン作戦で用いられた、戦車をモチーフとした戦争文学の研究を推進した。 具体的には、河童伝承については、「蕎麦の花」という、火野の河童作品集のタイトルにもなった短編小説を研究した。本作は、福岡県北九州行橋市の伝説を元に創作した物語である。この地方に伝わるお染河童と与左衛門狐の悲恋の物語を、同じく北九州地方に伝わる河童伝説の海御前伝説とを組み合わせ、火野独自の作品に仕上げている。火野の「蕎麦の花」は、伝承よりもさらに、悲惨な結末にしている点が興味深かった。伝説とは異なり、お染河童や与左衛門狐を不幸にすることで、広い視野で相対的に物事を見ることの必要性や、冷静に自分自身で判断することの重要性を描いている。なお、水木しげるが同名で、漫画化している。火野の「蕎麦の花」を典拠としながらも、水木も、自身の解釈を加えて、新たな漫画を創作し、両者を比較して論考をすすめた。 本作を研究するにあたって、行橋市に調査に行き、行橋市歴史資料館の学芸員の皆様方や、郷土の伝承を集めているグループの方、正の宮八幡神社宮司に貴重なお話をご教示頂きお世話になったことも貴重な体験となった。 また、戦争作品は「戦車なら」を論じた。火野葦平の戦時中の文学には、軍部のプロパガンダ的な役割を担わされ、青少年の戦意高揚を目指して描かれた作品もあった。文学の政治利用や強権発動の実態が垣間見られ、興味深かった。本年は、大阪国際児童文学館の特別研究員にもなり、同館と連携をし、児童文学雑誌などの収集につとめ、研究を進めることができたことは意義深かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
順調に論考を発表できている。また、科研費を有効に活用し、資料調査、フィールド調査につとめることができていることが大きな理由である。
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今後の研究の推進方策 |
今後とも、火野文学の重要なテーマである、河童作品群と戦争文学にこだわって研究を推進していく予定である。さらには、火野の戦後の旅行記などにも取り組んでいきたい。 具体的には、火野の河童作品群については、河童集大成『河童曼陀羅』収載の河童作品群を研究していく予定である。今まで、河童作品については、「海御前」「蕎麦の花」「白い旗」「石と釘」「亡霊」「手」などを研究してきたが、まだ四十数編の作品が残っているので、検討する余地が十分にある。『河童曼陀羅』収載の河童作品は、九州地方に由来する河童伝説をもとに、小説を構築しているものが多く、科研費を利用して、郷土資料館、郷土家にインタビューを行ったり、神社仏閣などを訪れ、九州ゆかりの河童伝承を調査し、火野の作品とどう異なるか検討する。また、水木しげると火野作品との違いも視野に入れて河童作品の研究をすすめる。地域は、福岡県、熊本県などを中心に訪れるつもりである。 戦争文学については、これまで「青春と泥濘」「土と兵隊」「象と兵隊」「異民族」「戦車なら」などの作品を研究してきた。引き続き、科研費を利用し、火野が従軍した、雲南・フーコン戦、インパール作戦を描いた作品群の検討を行いたい。「青春と泥濘」などの作品は、これまでも研究してきたが、さらに観点を変えて精読をすすめていく予定である。 また、旅行記では火野が訪れた、中国、朝鮮、台湾の見聞録を研究していく。二年前で中断している戦後の火野の旅行見聞録を続けて行っていきたい。そのため、中国、台湾などの地域やアメリカ合衆国、ヨーロッパなどの外国出張も考えている。ただし、新型コロナウイルスの影響で、十分な外国出張ができない場合は、火野の日記などの自筆資料をもとに研究を進めていくつもりである。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの影響で、予定していた海外での調査研究、および、国際シンポジウムなどが中止となってしまった。さらには、図書館、文学館などが閉館し、研究のための資料収集が滞ってしまった。新型コロナウイルスの流行が落ち着いたら、研究発表などを行いたい。2020年10月に、山東大学で開催される国際シンポジウムの招聘依頼があるので、開催が中止されなければ、参加、発表を予定しているので、その旅費、滞在費などに使用する。さらに、図書館、文学館などが開館したら、研究資料の調査のため、北九州文学館、日本近代文学館、神奈川近代文学館などで調査をする。そのための旅費、滞在費、資料複写費などに利用する。
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