研究課題/領域番号 |
19K00311
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研究機関 | 奈良大学 |
研究代表者 |
木田 隆文 奈良大学, 文学部, 教授 (80440882)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 上海 / 中支 / 日本未来派 / 上海文学研究会 / 池田克己 / 外地文学 / 植民地文学 / 戦後詩 |
研究実績の概要 |
本研究は、戦時下の上海および中支各都市で活動した日本人文学者・文化団体の文芸文化ネットワークが、戦後日本の文芸文化の創生と展開に与えた影響を検討するものである。 研究3年目にあたる本年度は、本来であれば最終年度として研究成果の取りまとめを行うはずであった。だがコロナ禍の影響で海外調査の見通しが立たず、早期に研究延長を見据えた研究計画の練り直しを行った。そのため本年度は既存資料を活用した研究基盤の再整備と新規資料の収集、次年度の研究成果報告に向けた調査に注力した。加えて外地文学関連の他科研や中国側研究者との情報共有を積極的に進め、コロナ以後の研究調査の準備態勢の構築も意識した。 具体的な研究活動としては、本研究のキーパーソンの一人として調査をすすめてきた池田克己が主要同人として参加した『上海文学』の全巻分を発見し、日本統治下上海の日本語文学の実態解明の基礎資料の整備を行った。また同時に、昨年度中に発見した池田克己の敗戦直後の書簡群の分析を進め、池田が大陸で形成した文化的人脈が、「日本未来派」を始めとする戦後日本の文芸文化においていかなる活動を展開したのかを検討した。そしてその過程で「日本未来派」黎明期の様子をうかがわせる高橋新吉の書簡群(22通)を発見し、加えて上海文学研究会同人遺族への聞き取り調査なども実施した。 なお『上海文学』および池田の書簡群については、本年度に細目の作成、翻刻などを完成させており、2022年度に解題を付して出版することが確定している。また同時に、これら資料の発見については、本年度の8月前後に各新聞を通じて発見報告を行い、研究成果の社会への還元も行った。また本年度は派生的な研究として、旅順の日本語文学資料の探索を行い、論考を執筆入稿したが、出版の遅れにより活字化が次年度以後になった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は海外文献調査および数次にわたる国内での文献調査を予定していたが、新型コロナウイルスの影響により海外調査が実施できず、国内所蔵機関の調査も満足におこなうことができなかった。そのため文献調査が当初予定より遅れており、それに連動する形で論文の作成等にも影響が出ている。また同時に参加していた出版計画もコロナ等の影響が出ており、執筆した論文の刊行が遅れるなどの問題が生じた。そのため当初は本年度が研究最終年度となっていたが、研究機関の延長を行うことし、次年度にまとめて成果を報告することとした。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は上記のような事情で目立った成果が出せなかったが、本年度に準備した成果が次年度に相次いで刊行できるため、次年度は成果面での遅れを取り戻す予定である。 ただ依然として中国での海外調査は厳しいと思われる。しかし本年度に中国側研究者との連携を進めたため、海外調査が実施できない分については先方との研究協力体制のなかで進めていく目算が立っている。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究は主に中国を中心とした海外調査を柱としたものであり、予算も海外調査に対する配分額が大きく占めている。だがコロナ禍の影響で海外調査が完全に中止となり、国内調査も必ずしも様々な制約がある現状で、調査活動が十分に実施できなかった。 次年度は保留となっている調査先への調査費用と、すでに研究成果報告として出版を予定している2冊の書籍の制作費として使用する計画である。現時点では予算は主に海外調査費として執行する予定であるが、事情が許さない場合は研究成果報告に比重を置く予定である。
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