本研究は、近世後期における地方歌壇の活動内容を明らかにすることであり、山形県庄内地方の和歌文学活動の実態を明らかにするものである。庄内歌壇の大きな特徴は、和歌を創作するだけではなく、和歌文学の解釈・注釈作業を伴っていたことであろう。 まず、庄内歌壇の一人・白井固の著『百首略解』の本文を紹介し、また、その特徴を論文として発表した。その白井固は、古今集の講義も行っており、その内容を弟子がまとめ江戸にて天保一四年に公刊したものが『古今和歌集遠鏡補正』である。 その後、池田玄斎の弟子であり、江戸にて平田篤胤に入門した服部正樹は、『古今老のすさび』『後撰老のすさび』『拾遺老のすさび』という三代集の全歌に注を施した注釈書を著している。これは、服部正樹自身が東北巡幸の折の明治天皇に献上しようとしたが果たせなかったものである。 その注釈内容を『後撰老のすさび』を中心に翻刻・内容の分析を行ってきた。令和五年度は、「近世庄内歌壇における『後撰和歌集』注釈考」という論文を山形大学紀要に連名で発表し、令和二年度の「服部正樹『後撰老のすさび』の注釈内容」で全体的な把握をしたものを補った。 ただ遅れを取り戻すべく研究会を重ねたが、写本の服部正樹の文字があまりに癖が強く幾度も読み返して訂正を繰り返してきた。ほぼ翻刻は終えたものの、より正しい翻刻本文の発表は今年度中、秋以降にリサーチマップに掲載する形で行おうと考えている。 また、『拾遺老のすさび』なども順次研究を進めていこうと考えている。
|