研究課題/領域番号 |
19K00318
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
渡辺 秀夫 信州大学, 人文学部, 名誉教授 (90123083)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 平安朝漢文学 / 和漢比較文学 / 唐文化の受容 / 国風化 / 賦学 |
研究実績の概要 |
『賦譜』には試賦の作り方に関する細かい指南があり、その技法論、題材処理の手法などの記述は律賦の特質の骨格・核心をまとめたものと思われる。ここで示される技法論の要点は、《句題詩》の技法の核心とも重なり合う点が少なくない。関連する詩格類をも参照すれば、この共通性はさらに強まる。おそらくは、『賦譜』のような科挙試詩対応の『詩格』のようなものがあったのではないか。このような存在をも仮定することを通じて、国風化現象を支える唐文化摂取の、今は失われた受容相の一端を明かにした。 ①「題」をいかに展開するか、詩文創作における「破題」の重要性に関する認識は、『賦譜』(や詩格)の指南によって、促進、テーマ化されていた。②また、同書の「律賦」における「破題」(言い換え)の技法は、同じく「律詩」のそれと同調していた。③詩賦の冒頭の第一、二句(破題)に、題目の字を置くことは、賦・詩ともに珍しいものではなく、「破題」の一形式として先例も少なくなかった。④「虚実」「古今(古事の引用)」「比喩」「双関」や、麗辞、「題」の処理法(破題)等を具体的に指南する『賦譜』の存在に鑑みて、同内容を指南する〈詩格〉類の渡来・利用も、想定しうる。⑤《句題詩》が「比喩」を重視することについては、我が国側の漢詩文受容の中に、文字言語(漢語)による発見的創造力(比喩・見立て)への強い興味・嗜好が存在し続けたことも大きい。⑥「私的抒情」を目的としない、規範的様式下での知識と表現の巧緻を競う「省試詩」(及び科挙試賦)は、宮廷詩宴の場が要請する規範モデルと合致していた。以上、《句題詩》の作詩法には、賦や科挙詩等の影響があるのではないかとの指摘に関し、王朝の詩文作成における、「詩賦格」類――『賦譜』ないし、今は失われた「詩格」など科挙対応の指南書――の受容(活用/流用)の観点を援用(想定)した検証を行い、一定の結論をえた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
『賦譜』の平安朝漢文世界における受容実態、及び本朝独自の「句題詩」生成に及ぼした影響等については、おおむね解明することが出来た。但し、依然として収束しないコロナ禍に伴い、国内外の旅行・調査等が大きく制約されたため、賦学研究のより本格的な研究については、中国・台湾地域における文献収集が殆どできていない。この方面での資料収集は、2年間停止したままである。ネット検索・リモート対応では、所期の計画の実現が大きく阻害されていることは否めない。
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今後の研究の推進方策 |
研究目的にあげた項目のうち、特に遅れているのは『賦譜』の注釈作業である。本文整訂・語注・口語訳・考察等の項目をたて、鋭意進めているが、進捗は芳しくない。当該写本が他の伝本も全く存在しない天下の孤本であることに加え、この写本自体に、魯魚の誤り・省略(抄出)等が少なくなく、多くの困難が伴い、順調とはいえない。参照資料を拡大して、可能な限り進めてゆきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍の影響により、計上されていた国内外の旅費分の執行が叶わなかったため、計画を1年間延長したため。今後とも、旅費分の執行ができない場合は、図書資料等の充足等を含め、より実現可能な経費の使用に努めることとする
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